競合と比べて生産性が圧倒的に高い理由

 働き方改革は、もっと儲かるためのもの。実際、単純に残業代が減れば、会社にとってはコストカットにつながる。だが、だからこそ、経営者は注意をしなければならないと小柳津氏は言う。

「総労務費をプールした上で、分配測を時間ではないものに変えていかないと、単なるコストカットに見えます。そのあたりを理解している経営者は、総労務費を減らすための方策ではないとはっきり言います。社員の働きやすさを伴うことで、生産性の良さを持続可能な状態にすることが目的です、と。だから、会社は今、支払っている労務費は横滑りでプールすると宣言する。そうしないと、本当の意味での時短にはつながらないと思います」

 実際、働き方改革の一方で基本給を上げたという会社もある。問題は人件費ではなく、働く中身の改善だからだ。

「実はマイクロソフト自体、今に至るまで何がすごいのかというと、一人当たり売上高を計算すると、とんでもない生産性を上げているんです。売り上げは本当に大きく上がっているんですが、社員をそんなに増やしていない。実際、競合他社に比べても圧倒的だと思います」

 実際、競合4社との生産性の違いの比較図を見せてもらった。そして小柳津氏は興味深いことを語った。

「働いている人間の力の差は正直、この4社でほとんどないと思います。なぜかというと、ぐるぐる人が回っていますから(笑)。人間の差がないとすると、会社の仕組みやカルチャーによるところが大きい。私が23年間、この会社にいて感じるのは、可視化の仕組みと、いつでもどこでもさっさと仕事ができるという環境が大きいと思っています」

 小柳津氏が入社した頃から比べると、驚異的ともいえるほどの徹底的な業務の標準化、標準化に伴う業務の電子化が行われてきたという。

「驚かれるかもしれませんが、私が入社した23年前には、あらゆるものが標準化されていなくて、とてつもなくペーパーワークがたくさん残っていたんです。信じられないと思いますが、あの当時はカーボン紙をまだ使っていたんですから」

 そこから、標準化と電子化が一気に進んでいった。

「いろんな仕事が社内にはあります。例えば、仕事のやり方をプロセス設計しやすいもの、誰かと関わるときに相手と前工程、後工程で定義したもの、やりとりする内容をフォーマット化、マニュアル化しやすいもの。一方で、マニュアル化しづらくて、冗長性が高く付加価値が高いコラボレーション型の仕事もあります」

 当然だが、最初に標準化されるのは、プロセスやマニュアルの作りやすい仕事群だ。徹底的にプロセスを洗い出し、仕事のボリュームを減らし、残った仕事は標準化してアウトソースする。それでも残った仕事は、機械やAIに任せる。だから、マイクロソフトにはマニュアル的な仕事は、まずないという。

「今、マイクロソフトの社員の給料を払おうと思ったらプロジェクト型の仕事をしてもらうしかないんです。実際、研究も開発もマーケティングも営業も、コンサルティングもサポートも、バックオフィス系の管理業務の人たちも、全員プロジェクト業務しかしていないんです。このくらい厳しくやっていくわけです」