飲食店チェーンの事例
飲食店チェーンのお客様相談室に、中年女性からクレームが入った。
「店員の態度がなってない! オタクはどんな従業員教育をしてるんですか!」
担当者は「ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません」とお詫びしたうえで、そのときの様子を尋ねると、女性は一気に不満をぶちまけた。
「言葉づかいが悪い」「オーダーを間違える」「仕事中に同僚とおしゃべりをしている」「服装がだらしない」などと厳しい言葉が続く。
その間、担当者は「さようでございますか」「おっしゃるとおりです」「ごもっともです」とあいづちを打ちながら、相手の話にじっと耳を傾けた。そして、女性がすべて話し終えるのを待って、再度お詫びの言葉を述べた。
「このたびは申し訳ございませんでした。これを契機に、従業員教育を徹底させてまいります」
女性は怒りが収まった様子で、穏やかに電話を切った。
(了)
初期対応では、こちらから細かく質問したり、中途半端な説明をしたりする必要はありません。まずは、相手の気持ちを受け止めることが重要です。
このケースでも、仮に店員の肩をもって釈明したとしても、「言った、言わない」「やった、やらない」の水掛け論になることがほとんどです。
「5分間」我慢すれば
8割は解決する
ところが、不用意な一言で相手をヒートアップさせてしまうケースが後を絶ちません。
その代表的なフレーズが、「ですから」「だって」「でも」の3つです。私は、これらを「D言葉」と名づけ、クレーム対応では絶対に封印するように、クライアント企業の方々にお伝えしています。
D言葉は、相手の話が的外れだったり、話が堂々巡りになったりすると、つい口にしてしまう言葉です。しかし、相手には「上から目線」「逃げ腰」、あるいは「反抗的」といった印象を与え、クレームを長期化させてしまうのです。
私の知るコールセンターには、元声優の優秀なオペレーターがいました。彼女は、相手の怒鳴り声にもひるまず、「それは失礼いたしました」「そうだったんですか」「ご不快な思いをされたことでしょう」などとあいづちを打ちながら言葉をつなぎ、相手からは見えなくても、深々と頭を下げています。すると、やがて相手の怒りは収まります。
電話がかかってきてから、約5分間の出来事です。
私の経験でも、悪意をもったクレーマーでない限り、「最初の5分間」で8割方「謝って済む問題」に持ち込める、というのが実感です。心理学的にも、人は、共感を示しながらお詫びする人に対して、いつまでも怒鳴り散らしていられるものではありません。
消火活動で、火の手が大きくならないうちに備えつけの消火器で「初期消火」するように、クレーム対応でも、初期対応が非常に重要なのです。
『対面・電話・メールまでクレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、「3点ピンポイントお詫び法」のほかにも、近年急増している「モンスタークレーマー」の終わりなき要求を断ち切る23の技術を、会話術から法律知識まで、余すところなく紹介しています。
ぜひ、日々のクレーム対応に使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。
(参考記事)
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