グーグル、アマゾン、マイクロソフトに始まり、ウーバー、エアビーアンドビー、イーベイに至るまで、最も大きく、最も急成長を遂げ、最も強い破壊力を秘めた企業の成功の礎となってきたのは、プラットフォームと呼ばれるビジネスモデルである。プラットフォームは、ヘルスケア、教育、エネルギー、政府といった、より幅広い経済的、社会的領域の変革を担いつつある。本連載では、前世紀の戦略論を大きく書きかえ、世界10ヵ国でベストセラーとなった待望の邦訳『プラットフォーム・レボリューション――未知の巨大なライバルとの競争に勝つために』から、エッセンスを抜粋して紹介する。
フリーミアムの価格効果はほとんどの場合一過性に終わる
ネットワーク効果を「価格効果」や「ブランド効果」といったおなじみの市場構築ツールと区別することは重要だ。その違いを誤解すれば、プラットフォームのビジネスモデルの評価方法に混乱が生じる。1997~2000年のドットコム・ブームとその崩壊を招いたのは、この誤解だった。
ドットコム・ブームの間、eトーイズ(eToys)、ウェブヴァン(Webvan)、フリーPC(FreePC)などのスタートアップへの投資家は、ビジネスの成功を占う唯一重要な指標は市場シェアだと考えていた。「早く大きくなれ」「拡大か、撤退か」といったスローガンに投資家は魅了されて、集客にお金を惜しまぬよう投資先企業を促した。誰も太刀打ちできないほどの市場シェアを取って優位性が実現されることを願っていたのである。
企業側もそれに応えて、たとえば割引やクーポンを配布して価格効果を出そうとした。ときには無料にすることも含めて、法外な低価格で集客することは、市場シェアを買う絶対安全な方策といえる―少なくとも一時的にはそうだった。ワイアード誌元編集長のクリス・アンダーソンが執筆した『フリー―〈無料〉からお金を生みだす新戦略 』(日本放送出版協会、2009年)などのベストセラーは、無料でばらまくことの福音を説き、「無料」から「プレミアム」へと着実に上っていく「フリーミアム」(フリー+プレミアム)という価格戦略を打ち出した。
問題は、価格効果が薄れてしまうことだ。割引キャンペーンが終了したり、他社がもっと安い価格を提示したとたんに、こうした企業は姿を消さざるをえない。一般的に、無料サービスから有料サービスへと移行する顧客は、わずか1、2%だ。
このため、ベンチャーの立ち上げを支援するテックスターズ社創業者兼CEOのデービッド・コーエンが指摘するように、無料でばらまくモデルを黒字化させるには、何百万人もの顧客をまず獲得する必要がある。1999年に、フリーPC社が広告閲覧やオンライン売上調査への参加を条件に、ペンティアム搭載パソコンを無料配布したときに判明したように、フリーミアム・モデルは課金が難しいだけでなく、ただ乗りするユーザーも生み出してしまうのだ。
人々が特定のブランドに品質を関連付けて思い浮かべるときに生じるブランド効果は、もう少し長続きする。しかし価格効果と同じく、往々にして維持するのは難しく、極端に費用がかかることもある。eトーイズは、アマゾンやトイザらスと競争したいとの思いから、ブランド構築に数百万ドルを費やした。アメリカの主要都市で食品や書籍、コーヒーなどの基本用品を1時間以内に無料配送することを約束したオンライン企業のコズモ(Kozmo)は、スポークスマンとして人気女優のウーピー・ゴールドバーグを起用し、株式で出演料を支払ったが、その後すぐにつぶれてしまった。
ドットコム・バブルが崩壊する前のピークに達していた2000年1月、スタートアップ企業19社がブランド認知を高めようと、それぞれ200万ドル以上をかけて、アメリカのプロ・アメリカンフットボール・リーグの優勝決定戦であるスーパーボウルの広告枠を買った。それから10年余りを経た時点で、そのうちの8社は姿を消していた。
価格効果とブランド効果は、スタートアップ企業の成長戦略の中で定着している。しかし、ネットワーク効果だけが先述の好循環を創り出し、それによって長続きするユーザーのネットワーク構築につながるのだ。私たちはこの現象を「ロックイン(囲い込み)」と呼んでいる。