グーグル、アマゾン、マイクロソフトに始まり、ウーバー、エアビーアンドビー、イーベイに至るまで、最も大きく、最も急成長を遂げ、最も強い破壊力を秘めた企業の成功の礎となってきたのは、プラットフォームと呼ばれるビジネスモデルである。プラットフォームは、ヘルスケア、教育、エネルギー、政府といった、より幅広い経済的、社会的領域の変革を担いつつある。本連載では、前世紀の戦略論を大きく書きかえ、世界10ヵ国でベストセラーとなった待望の邦訳『プラットフォーム・レボリューション――未知の巨大なライバルとの競争に勝つために』から、エッセンスを抜粋して紹介する。
ウーバーの成長には、第二のネットワーク効果が働いていた
ウーバーの成長に作用したのは、「正のネットワーク効果」に続く第二のダイナミクスである。これは「ツーサイド・ネットワーク効果」と私たちが呼ぶものだ。
前回の記事で、メトカーフの電話における「正のネットワーク効果」の例で、電話利用者がさらに多くの電話利用者を誘い込む点を解説した。ロバート・メトカーフは、ネットワークの加入者数が増えるにつれて、電話ネットワークの価値が非線形的に増加し、加入者間の接続を増やせることを指摘した。
かいつまんで説明すると、ネットワークにノード(結節点)が1つしかなければ、つながることはできない。「史上最も偉大な営業マン」賞は最初に電話を売った人にあげたいと言う人もいる。世の中に電話が1台きりだとすれば、誰にも電話をかけられないので、ほぼ間違いなく価値はゼロである。
しかし、電話を買う人が増えるにつれて、その価値は増していく。2台の電話で接続数は1つ、4台の電話で接続数は6つ、12台で66、100台では4950となる。これは「非線形的な成長」、あるいは「凸成長」として知られる。
ところがウーバーの場合、成長のエンジンはこれだけではない。市場に2つのサイドが介在するのである。つまり、利用者が運転手を引き付け、かつ運転手が利用者を引き付けるのだ。
同じようなダイナミクスは、他の多くのプラットフォーム・ビジネスでも見られる。グーグルのアンドロイドOSでは、アプリ開発者が消費者を引き付け、消費者がアプリ開発者を引き付ける(訳注:このOSで動くアプリの数が増えれば増えるほど、ユーザーはそのOSを搭載したスマートフォンに魅力を感じる。他方で、そのOSを使ったスマートフォンのユーザーが増えれば増えるほど、そこに提供するアプリを開発したくなる人々が増える)。
アップワーク(のプラットフォーム)では、求人募集の数がフリーランサーを引き付け、フリーランサーが求人募集を引き付ける。ペイパルでは、売り手が買い手を呼び、買い手が売り手を呼ぶ。エアビーアンドビー(のプラットフォーム)では、家や部屋を提供するホストが宿泊客を呼び、宿泊客がホストを呼ぶ。これらの事業ではすべて、「正のネットワーク効果」とともにツーサイド・ネットワーク効果が働いている。
このようにネットワークの成長を刺激する効果は重要なのである。そこで、お金をかけて市場の一方のサイドの参加者を集めようとするプラットフォーム・ビジネスも少なくない。一方をプラットフォームに呼び込めれば、もう一方のサイドの参加者も後に続くことを心得ているのだ。
正のフィードバックを伴うツーサイド・ネットワーク効果を考えると、ウーバーがなぜビル・ガーリーら投資家から調達した数百万ドルもの資金を使って、30ドル相当の乗車サービスを無料で提供したのかがわかるだろう。ウーバーが無料でばらまいたクーポン券は、運転手と利用者の好循環への誘い水だったのだ。それを呼び込む形で市場シェアを買ったのである。利用者は、この後でネットワークに参加し、全額を支払うようになる。
技術の絡まない卑近な例もある。たとえば、地元のバーが行っている平日のレディース・ナイトというサービスだ。この日は女性客に飲み物を割引価格で提供する。女性客が多く訪れれば男性客も来店し、男性客は喜んで自分のドリンク代を全額支払ってくれる。
このようにツーサイドの市場では、A市場の成長によって関連するB市場が成長する場合、たとえA市場での財務的損失(それも一時的ではなく、永遠に!)を受け入れたとしても、全体としての経済合理性を持つこともあるのだ。ただし、B市場で稼いだ利益がA市場で生じた損失を必ず上回ることが唯一の条件であることは、言うまでもない。