周りがしっかり見えていますか?
これは「急ぐ」と題された谷川俊太郎さんの詩を少しアレンジした掲示です。
「こんなに急いでいいのだろうか」という問いかけから始まり、時速200kmで通り過ぎる新幹線からは、田植えをしている人の手元が見えない、心を思いやる暇もないと続きます。 このスピードでは、速すぎて、人々の感情すらも流れゆく風景のように去って行く……。
わたしはこの掲示を見たとき、果たしてこれは新幹線の中からだけなのだろうか、と思いました。
普段の生活の中でみなさんは今、周りがしっかり見えていますか?
忙しすぎて見えていないのではないですか?
悟りを開かれたお釈迦さまは「覚者(かくしゃ)」とも表現されます。英語で言えばAwakend One(目覚めたもの)。つまり、すべてが見えている存在です。
それに対して、わたしたちはすべてが見えていると思い込んでいるだけで、新幹線の中からの風景のように、ぼんやりとしか見えていません。ある意味、谷川俊太郎さんの表現を借りると、「間が抜けている」状態ともいえるでしょう。
目を覚まして自己を見つめる
「家族と過ごすこと
親から愛されること
今生きていること
当たり前なんてない
目を覚ませ」
この標語は強烈な言葉ですね。
日々を忙しく過ごしていると、新幹線の中からの風景のように、周りのものがしっかり見えなくなります。私たちは毎日、実に多くの人や物に支えられながら生きています。自分はものすごく恵まれている存在なのです。それが当たり前になってしまい、見えなくなっているのではありませんか?
だから「目を覚ませ」と。その事実をいつもしっかりと自分で見る(認識する)ことができるようになれば、どんな辛い状況に置かれても幸せなのかもしれません。
(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)