人生のトレードオフで重宝する2つのリスク管理ツールとは?

 その翌日、コリンズ牧師は、リジーの親友でリスク回避志向の強いシャーロット・ルーカスに同じ論理で求婚し、結婚する。シャーロットはコリンズの実用主義に納得していた。シャーロットは以前から「結婚で幸せになれるかどうかは完全に偶然でしかなく」、いい相手を見つけるのに愛情や相性はほとんど関係ないと思っていた。

「私ってロマンチックじゃないの。知ってるでしょ。昔からそうだった。居心地のいい家があればそれでいい。コリンズさんの性格と人脈と収入を考えたら、彼と結婚して幸せになれる可能性はすごく高いはず。たいがいの人が自慢するくらいにね」。シャーロットはそう言っていた。

 要するに、シャーロットから見れば、自分の経済的なリスク許容度と、結婚から予想できるリターンに照らして、これは良い取引だと思えたのだ。結婚市場において、シャーロットはさらにリスクを取るよりも落ち着くことを選んだ。リジーは反対に、ロマンチックな結果を期待してもっとリスクを取ることを選んだわけだ。

 リジーとシャーロットが夫選びで直面するリスク管理の問題は、私たちが多くの場面で直面するトレードオフに似ている。

 たとえば、さらに高い教育を継続するだけの「価値がある」のだろうか?教育を受け続けることで、専門化や借金といったリスクを上回るリターンが得られるのか?スタートアップに自分という人的資本を投入することは、12ヵ月後に倒産するかもしれないリスクに値するか?目の前の仕事を受けるべきか、それとも理想の仕事を探し続けるべきか?

 こうした問いは、選択がもたらすリスクとリターンを考えさせ、不確実な未来にある一連の選択に、自分の時間と力とリソースをどう配分すべきかを考えさせる。この配分の問題こそ、まさにファイナンスの核にある問いなのだ。

 保険は死や長寿や自然災害のリスクを管理するための効果的なツールだ。しかし、労働市場や結婚市場のリスクはどうだろう?そうしたリスクへの保険はおカネでは買えない。

 幸い、ファイナンスには二つの有効なリスク管理の手法がある。一つはオプション、もう一つは分散化だ。いずれも保険の論理から生まれた手法である。近代ファイナンスが先ほどの二つの手法を正式に確立する前に、それらを直観的に使ってうまくリスクを管理していた人もいるのである。

*『高慢と偏見』の引用の一部は、小尾芙佐訳、光文社版による。