合理的な指摘に、罵詈雑言を投げつける人々
空気=前提に従わない異論者を攻撃する
単純化できる定義と、空気が引き起こす問題の複雑さのギャップ。この乖離は、この定義の前後のプロセスから発生しています。
空気=ある種の前提とした場合、特定の集団内でこの空気(前提)がごく自然に、抵抗なく受け入れられる場合には、問題はあまり起こりません。
ところが、誰かが顔をしかめるような前提ならばどうでしょうか。空気を浸透させようと狙う側は、そのようなとき、徹底的な弾圧を始めます。
書籍『不死身の特攻兵』(鴻上尚史・著)は、陸軍の名パイロットだった佐々木友次氏が、神風特攻隊として指名されながら、何度も生きて帰ってきた史実を解説しています。
佐々木氏は、パイロットの使命は「何度でも出撃して敵艦を沈めること(*8)」だとして、体当たりをせずに、技術と精神をふりしぼって爆弾を投下しては帰還しました。
しかし、特攻隊は体当たりで自爆する、という空気(前提)に従わない佐々木氏に軍部は激怒。上官たちは罵詈雑言を佐々木氏に投げつけ、精神的に追い詰めようとします。
「きさま、それほど命が惜しいのか、腰抜けめ!」
(中略)
「馬鹿もん! それはいいわけにすぎん。死んでこいといったら死んでくるんだ!」
(中略)
「(中略)明日にでも出撃したら、絶対に帰ってくるな。必ず死んでこい!(*9)」
空気に従わない者を徹底弾圧する。戦時中も現代日本もこの点は同じなのです。
日本を覆う「同調圧力」と「空気」の正体
現代日本では、空気を同調圧力と理解する人も少なくありません。空気を、特定の意見や前提に“同調しろ”という強制と考えるのです。
山本氏は、空気を「絶対的な支配力をもつ判断の基準」と表現しました。言い換えるなら、ある種の前提から外れた思考・発想をするな、という禁止令です。
ただし、すんなりと受け入れられる空気(前提)もあることを考えると、空気と同調圧力は区分すべき構造と考えるのがより自然です。
「空気」=ある種の前提
「同調圧力」=その前提に従わない者への嫌がらせ、攻撃、弾圧
ある集団内で支配的な立場にある者が、特定の前提を打ち立てたのち、その前提に従わない者に、嫌がらせを含めた徹底的な攻撃・圧力を加える。これが「空気」とそれに続く「同調圧力」の正体なのです。
前提に従わない者を叩いて、間違いを訂正させない
ある者が立てた前提(空気)に従わない者を、徹底して弾圧して追い詰めていく。これは、政治集団や利害関係のある企業、あるいはコミュニティーなどの身近な集団でも起こり得ます。学校や職場などの組織でも稀にあり得るかもしれません。
日本は戦時中、戦争反対を唱える者を逮捕して、拷問するなどの行為をしていました。これは「戦争継続」という空気(前提)に異議を唱える者を処罰するためです。このようにして、戦争継続という前提(空気)に大衆を逆らえなくしたのです。
逆に、空気に積極的に従う者にはアメが用意されることもあります。共同体や権力者の描いた前提(空気)に積極的に従う者に、優先的に利益を与える。賄賂が成功すれば、空気(前提)に反対を唱える者は少数派になっていくのです。