疲労骨折との関連性を知らなければ、「生理は引退すれば自然に戻るから大丈夫」といった暴論が支配し続けていた可能性が高い。私自身、取材で女子スポーツの指導者に質問した際、いつもそのような回答を得ていた。

 体重制限をし、「体脂肪がある数値を下回ると生理が止まる」ことは多くの指導者や選手が実感していた。しかし、「引退すれば生理は戻るから心配する必要はない」という論理がまかり通って、危険性は無視されていた。

 ひとりの女性の幸せな生涯よりも、目先の競技成績ばかりが優先されていた。実際には、長く月経異常が続けば、骨粗しょう症を引き起こすばかりでなく、引退しても正常な月経が回復しない恐れもあるという。生理が止まるという不自然な状態は決して楽観し、見過ごしていいものではない。指導者が、「どうせ引退すれば戻るから」などと、横暴に指図できることではない。究極のパワーハラスメント、いやそれ以上に深刻な人生への打撃を与えかねない暴力的行為だ。

女性アスリートの健康を守る
日本スポーツ界の対策の現状とは

 日本でも、個々のチームや指導者が深くこの問題を理解し、指導方針を変えた例は確認された。けれど、日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会がどれほど具体的な予防に取り組んでいるか、十分とはいえない気がする。

 主な動きとしては、国立スポーツ科学センター(JISS)がスポーツ庁の委託事業として、<女性アスリート育成・支援プロジェクト>を立ち上げ、「女性ジュニア・アスリートおよび保護者のための講習会」「女性特有の課題に対応した支援プログラム」といった取り組みがなされている。いわば啓蒙活動。もちろん一定の成果はあるだろうが、指導者たちがどれほど認識を変えるか。目先の勝敗以上に重要な「女性の健康」を前提にする意識を持ち得るかは重要な課題だ。

 ほかには、2014年10月、順天堂大学付属病院に女性アスリート専門外来ができている。これも画期的な変化ではあるが、症状が出てからでは遅すぎる。未然に防ぐ意識改革、姿勢の転換をもたらす取り組みが急務だが、そういった動きはまだ目に見えて起こってはいない。

 スポーツではないが、フランスで昨春、「痩せすぎモデルの活動を禁止する」という法律が制定され、日本でも話題になった。肥満度を示す体格指数(BMI)が低すぎず、健康であることを証明する診断書の提出義務が課せられた。世界保健機関(WHO)では、「18.5以上、25.0未満」を標準体重と定めている。この数値をスポーツ界でも義務化することが必然とは思わないが、こうしたバロメーターを共有することは一案かもしれない。健康を害することがわかっている身体状態で競技することを戒める(禁じる)ことは、ドーピングを禁じるのと同じかそれ以上に重要なスポーツの前提ではないだろうか。

(作家・スポーツライター 小林信也)