[図表0-1]のグラフは、40歳から59歳までのジョブ・パフォーマンスを2歳刻みで数値化したものです。

ジョブ・パフォーマンス(40-59歳)

ジョブ・パフォーマンスという指数の意味するものが気になる方もいると思いますが、ひとまずここでは「どれくらい活躍しているか」を表す数字として、ざっくり捉えておいてください。
これを見ると、40代半ばと50代前半に「谷」があるのがわかります。それまである程度の水準を保っていたパフォーマンスは、40代中盤あたりで一度ガクンと下がり、さらに50歳前後で「二番底」を打つかたちになっています。

42.5歳から「出世したくない派」が増える

この2つの「谷」は、日本企業が戦後から長きにわたって築いてきた独自の雇用慣行、すなわち日本型雇用と密接に関係しています。これが「キャリア上のターニングポイント」となって、われわれは特定のタイミングで「停滞感」を味わわされているというわけなのです。

第1の「谷」を生んでいるのは、いわば昇進の罠です。
日本型雇用の最大の特徴の1つと言われている「新卒一括採用」によって企業に入社した人は、同年入社の「同期」たちと横並びの状態で、キャリアを歩んでいくことになります。

この制度の大きな特徴は、「同期よりもがんばれば、先に出世できるかもしれない……」という昇進期待を働く人たちに抱かせ、長期にわたってモチベーションを保つことができるということです。
とはいえ、このような仕組みが機能するのは、せいぜい30代まででしょう。40代中盤にもなれば、「見せかけの平等」のメッキは剥がれ、同期入社組のあいだの差は、もはや無視できないレベルにまで広がっています。こうなると、「自分もがんばれば、いつかは……」という"淡い期待"に訴える戦略は、多くの人に対して効力を失っていきます。

会社が用意するキャリアアップ・ストーリーに乗り損ねた人たちのあいだには、「こんなはずじゃなかった……!」という失望感が広がり、モチベーションの低下を招きます
これがジョブ・パフォーマンスにまで影響した結果こそが、40代中盤あたりに見られる「第1の谷」だというわけです。

[図表0-2]は「出世に対する意欲の変化」を示したグラフです。

出世に対する意欲の変化

42.5歳を境目にして、「出世したい」と「出世したいと思わない」の割合が逆転しています。しかも「出世したいと思わない」の比率は、逆転して以降はひたすら右肩上がりで伸びているのが見て取れます。

「こんなはずじゃなかった!」

しかも、この谷を生み出している「昇進の罠」は、以前よりも影響度を増していると言えるでしょう。
同期入社の「横並び文化」が機能していた時代と比べると、いまは経営環境が大きく変化し、役職ポストも少なくなりました。

昇進への期待を全員に抱かせるためには、それに見合った大量のポストが必要になります。右肩上がりの経済成長期には、各社で事業が拡大していきますから、ポストをつくることは比較的容易でした。
また、事業の拡大以外でも、「担当課長」や「部下なし管理職」といった新たなポストを拡充し、企業は昇進への期待に対する「受け皿」を用意してきました。

しかし経済成長の鈍化とともに、もはやそうしたやり方は限界を迎えています。「以前だったらもう課長」レベルの人も、なかなか昇進できないまま、一般社員として滞留している会社も多いでしょう。
また、人口動態の観点から見ても、ボリュームゾーンのいわゆる団塊ジュニア世代(1971〜1974年に生まれた世代)が40代後半を迎えつつあるいま、限られた役職ポストを奪い合う構図は、以前にも増して激化しています。

30年前のバブル期(1988〜1992年)に大量採用された世代は、2018年時点では48〜52歳です。われわれが若手のころに「きっとこうなるんだろうな……」と思っていた未来はことごとく裏切られ、膨大な数の「こんなはずじゃなかった……!」が生み出されている可能性があるのです。