一方、「どうやったらいいでしょうか?」「どう思いますか?」という相談を受けたときには、いくら相手が答えを求めているように見えても、それを直接手渡すのは避けましょう。とくに相談者が年下の場合、「これはこうしたほうがいいよ」というアドバイスは、どうしても「正解の押しつけ」のように映ってしまいます。
答えをただ教えるのではなく、相談者が"自分なりの答え"にたどり着くための材料を手渡せないかを考えてみましょう。たとえば、「この企画、どう思いますか?」と相談されたら、「過去にこれと似た企画が出たときには、部長からこんな指摘が入っていたよ」というような情報を伝えてみます。すると、相談者は企画プレゼンのときにフォローしておくべき点などを、事前に知ることができます。
また、「この手の企画は、坂口さんにも聞いてみるといいよ」など、まさに「Who knows What」に基づいた情報を教えるのも効果的でしょう。これも、答えにたどり着くための材料を手渡す行為だと言えます。
相手はそもそも「答え」を求めていない――壁打ちと逆質問
最後に、いつも意識しておくといいのが、そもそも相談する側も「ポンと答えが返ってくること」を期待しているわけではないということです。
自分なりになんとなく仮説を持っていて、それを自分に納得させるために、あなたと話がしたいだけなのかもしれません。テニスプレーヤーが壁に向かってボールを打ち、自分のフォームを確認しているようなイメージですね。そのときに求められているのは、いわゆる傾聴です。
もしも「相手はすでに"自分なりの答え"を持っていそうだな……」と感じたときには、次の3つを全力で行い、「壁打ちの壁」役に徹しましょう。
・ あいづち――「うんうん」「なるほど」「いいね」
・ おうむ返し――「A市場を狙いたいんです」「A市場を狙いたいのか」
・ 言い換え――「しかも前年比140%ですよ」「へえ、1.5倍近いね」
さらなる高等テクニックとしては、逆質問があります。
たとえば、「この企画どうでしょうか?」という相談に対しては、「この企画は誰に読ませたいんですか?」「どこが差別化のポイントだと思っていますか?」などと尋ねるわけです。
これに答える過程で、相談者は自分の思考を整理していくことができます。「相談」に対しては、「答え」ではなく、「質問」を返す――これもぜひ意識してみてください。
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。「越境的学習」「キャリア開発」「人的資源管理」などが研究領域。人材育成学会理事、フリーランス協会アドバイザリーボード、早稲田大学大学総合研究センター招聘研究員、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、一般社団法人ソーシャリスト21st理事、一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会特別会員。主な著書に、『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、主な論文に"Role of Knowledge Brokers in Communities of Practice in Japan." Journal of Knowledge Management 20.6 (2016): 1302-1317などがある。