特に、麻酔薬や鎮静薬等の薬剤で性的幻覚は起こりやすく、麻酔科医・歯科医・内視鏡検査技師等はこのような告発の対象となりやすいとも報告されている(*2)

「せん妄状態で幻覚を見ると、患者さんにとってはリアルで怖いようです。幻覚を見ているときは攻撃的になる人が多く、翌日『被害を受けた』と話されます。攻撃的になるのは不安や恐怖の裏返しで、防御反応の一種です」と八田教授は説明する。

せん妄の発生は
認知症発症につながる

 さらに、2012年、英・ケンブリッジ大学の研究班が「せん妄と認知症の発症」に関するショッキングで、信頼性の高い結果を発表した(*4)

 1991年からフィンランドの村で、認知症のない85歳以上の住民を10年間追跡したところ、せん妄を起こしたことがある人はなかった人と比べて、認知症を発症するリスクが8倍も高かった。さらに、認知症を発症した人はMMSE検査(認知症のスクリーニングテストとして世界で使われる検査)の点数が、発症しなかった人と比べて毎年1点以上も大きく低下していた。

「せん妄が起こることは認知症を発症する強いリスクになるという結果です。せん妄は身体に重篤な反応が起きているというサインでもあります。生命予後が短くなるという結果も出ています」と八田教授は説明する。

 だが、これまでせん妄に対して承認された治療薬はなく、代替薬として抗精神病薬が使われていた。それは、せん妄は前述した特徴のように急に発生する精神的な症状で研究しにくいため、客観的なエビデンス(科学的根拠)がとても少なかったからだ。

*4 Daniel H. J. Davis, et.al,:Delirium is a strong risk factor for dementia in the oldest-old: a population-based cohort study, Brain,2012