思考の盲点にひそむ非常識な本質
古い前提を否定して、新たな理想を描き、実現する。この発想を基に、あらゆる可能性を検討するからこそ、飛躍と革命が生まれるのです。
日本の日産自動車のスーパースポーツカー「GT-R」の元開発責任者で、レース監督でもあった水野和敏氏は、著書『非常識な本質』で次のように述べています。
「こんなことを考える人がいない」ということは、多くの人が「思考の盲点」に陥っているということです。逆にいえば、そうした盲点にこそ、他人からすれば非常識だけど物事の本質が隠れているのです(*4)。
古い前提、人々を拘束している悪しき前提の否定には、エネルギーが必要です。だからこそ、私たち日本人の根本主義(ファンダメンタリズム)、譲れぬ正義が効果的なのです。
一方で、これまでの産業史を振り返っても、日本人と日本企業の製品は、たびたび世界に普及して、多くの自由を広く人々に与えてきました。
今、日本企業と日本人に求められているのは、普遍性の高い正義を世界に投げ込む力であり、悪しき前提を否定して、あらゆる可能性を検討できる本物の自由なのです。
製品開発やブランド戦略にしても、これは共通します。普遍性の高い正義を世界に問いかけて、どんな力で人々を解放するか。自らのビジネスをこのように自己描写することで、世界の解放者になるべきなのです。
現代ビジネスの覇者は、前提外しの思考力に優れている
現代ビジネスでも、「前提を疑う思考力」は重要なポイントになります。あらゆる企業、組織、ビジネスは繁栄するための前提条件を持つからです。
最近では、自動車のEV化が日本国内でも大きな話題になっています。現時点で世界市場を席巻している日本製の自動車は、内燃機関のエンジンの精密さと、変速機であるミッションの優秀性などが勝因と考えられています。
しかし、電気自動車にはエンジンと変速機が必要ありません。そのため、日本の自動車メーカーの繁栄の前提が、電気自動車へのシフトで揺らぐ可能性が指摘され始めています。
最新のビジネス競争では、ライバル企業に有利な前提を破壊することを狙います。前出の『イノベーションのDNA』は、革新的なイノベーターに共通する4つの行動を挙げています。
[1]現状に異議を投げかける質問
[2]技術や企業、顧客などの観察
[3]新しいことを試した経験や実験
[4]重要な知識や機会に目を向けさせてくれた会話
いずれも何らかの「固定的だと思われている前提」に疑問を投げかけることで、他社が思いつかない魅力を持つ製品やサービスをつくり上げる機会となるものです。
「空気とはある種の前提である」と理解すると、私たちが考えていたよりも、遥かに多くの存在が、空気を破壊する機能を持っていることがわかります。
【空気を破壊する存在の例】
・相対化
・新しい技術
・新しい視点
・新しい価値観
・新しい社会の潮流
・新しい外部環境
新しい前提を創造する力が、日本の未来を豊かにする
2016年の冬、アマゾンは新しいコンビニエンスストアのモデル店舗「Amazon Go」を発表しました。その店舗にはレジがなく、消費者が棚から商品を取ると、画像解析と電波通信で店舗を出る瞬間にネットで清算が完了する機能を備えています。
この数年間で話題となったAirbnbは、個人の自宅を宿泊できる形で貸すという意味で、ホテルのような既存同業の前提を変えています。配車サービスのUberも、個人ドライバーがタクシーの役割を果たすことで、これまでの移動の前提条件を変えています。
相手が成功している前提条件を分析する力、その前提条件を破壊して自社に有利な状況をつくり出す力こそが、ビジネス、特にベンチャービジネスを動かす原動力になっているのです。
未来は古い前提とは関係なく発展し、新たな変化は広がっていきます。古い前提に固執すれば、人々を拘束したまま自らが時代遅れになっていくのです。
日本と世界に溢れる「前提」を見抜き、新たな未来のために、より健全で多くの人々が幸福になれる前提を発見すること。古い前提から自由になり、新しい前提をつくり上げる力こそが、日本の現在と未来を豊かなものにするのではないでしょうか。
(この原稿は書籍『「超」入門 空気の研究』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)