スティーブ・ジョブズがアップルIIを開発できたのはなぜか。日本で、アマゾンやAirbnb、Uberなど新しいビジネスが生まれにくい、本質的な理由とは何か。古い前提を否定して、新たな理想を描き、実現する。この発想を基に、あらゆる可能性を検討するからこそ、飛躍と革命が生まれるはずだが、日本人にはこうした発想ができない理由がある。40年読み継がれる日本人論の決定版、山本七平氏の『「空気」の研究』をわかりやすく読み解く新刊『「超」入門 空気の研究』から、内容の一部を特別公開する。
明日から会議に出て下さらなくて結構です
山本氏は『日本人と「日本病」について』で、ある逸話を紹介しています。
世界的な教会会議で、出席していた日本人牧師が、ご意見はありますかと聞かれて、次のように答えました。
(日本人牧師)「皆さんと同じです」
すると議長から、日本人牧師はこう言われたのです。
「明日から会議に出て下さらなくて結構です」(*1)
私たち日本人にはややショッキングな逸話ですが、なぜ日本人牧師はこのような言葉を議長から投げかけられてしまったのでしょうか。
あなたは集団に貢献する「独自の正義」を持っているか
日本人牧師が、次回の参加を断られた理由は、組織原理からすればシンプルです。わざわざ日本人牧師に意見を聞いたのは、世界会議の他の出席者とは異なる視点で、共同体に新しい提言や貢献ができるのではないかと考えたのでしょう。
すでに知っている間柄の牧師たちを一つのムラとすれば、既存のムラの前提とは違うムラ(日本)の牧師が参加していたからこそ、意見を聞いたのです。
理由は、異なるムラを横断的に貫く、より高いレベルの社会正義をこの日本人から得られるのではないかと期待したからです。
つまり、この日本人牧師から聞き出したかったのは、あなたが集団に貢献する独自の正義を持っているか否か、ということだったのです。
それは、世界会議の既存メンバーにはない、「新しい正義」と考えることもできるでしょう。
誰かの中にある正義が共同体の中に投げ込まれることで、過去の共同体よりもさらに進化して、メンバーの幸福や豊かさ、健全さの新しい最適化を成し遂げる。
このような行為を受け入れて、定期的に実行するのは、ムラ自体が常にある種の競争にさらされているという意識があるからだと思われます。
逆にムラが一つで不変と考えると、ムラと違う意見を持つことが摩擦になります。そのため、この日本人牧師は「皆さんと同じです」と答えたのではないでしょうか。
共同体が外的な競争を勝ち抜くためには、常に進歩改善をする必要があります。ムラ全体を支配して異論を排除することが、ある種の勝利と考える日本とは異なり、新しい正義を共同体に取り入れて、全体を進化させる思想を西欧は持っているのです。
*1 山本七平『山本七平全対話(5)日本人と「日本病」について』(学研)P.15~16