その後、山川が果たして出世したのか、左遷された中井はどうなったのか、そして中井に好意を抱いている陽子の恋はどうなったのか、東京オリンピックや外資規制緩和など経済の国際化が始まった当時の雰囲気と合わせて、内容はDVDでご確認いただくとして、こうした描写を通じて、日本の労働者が長期的な関係が続くという期待の下、会社に忠誠を尽くしていた様子を理解できます。

定年退職は
年齢差別か

『君も出世ができる』の「退職金が生きがい」というセリフも日本型雇用慣行と関係します。日本では一定の年齢を超えると、退職することを強いられる「定年退職」が制度化されていますが、海外では同様の仕組みは見られず、「年齢」を理由とした差別と見なされるとのことです(鶴光太郎『人材覚醒経済』)。

 このシステムの下では、年を取った人が市場から自動的に退出することを意味するので、若い人にとっては昇進の機会が必ず回って来ることを意味します。その半面、退職を強いられる勤め人は「年金をもらうまでの間の収入源をどうするか」という悩ましい問題に直面するほか、メンバーシップから外れる一抹の寂しさを感じる機会にもなります。

 こうした勤め人の悲哀は映画の素材に使われる機会が多く、1962年製作の『家庭の事情』という映画では冒頭、妻に先立たれた定年退職した父親(山村聡)が傍系企業で嘱託勤務することになったと話しつつ、退職金と貯金を足した250万円を自分と4人の娘で均等に分配するところから始まります。

 さらに、2018年公開の『終わった人』という映画では、田代壮介(舘ひろし)というエリート銀行マンが退職後、「定年は生前葬」と呟く場面がありますし、同年公開の『体操しようよ』という映画でも佐野道太郎(草刈正雄)という38年間無欠勤のシングルファザーが退職後、虚脱感に見舞われる様子を描いています。これらについては、日本型雇用慣行のメンバーシップから外れることに対する寂しさと喪失感を描写しているといえます。