世の中には、生涯で本を5冊も読まない人が大勢います。
「購入された書籍全体の95%が、読了されていない」のです。
 でも、途中まで読もうとしただけでも、まだマシです。
「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」のですから。
「最初から最後まで頑張って読む」「途中であきらめない」
 こんな漠然とした考え方は、今すぐ捨ててしまって結構です。
 これから紹介する1冊読み切る読書術さえ身につければ!

学生たちが戸惑う読み方とは?

ほとんど終わりのほうから読んでみる

明治大学文学部教授・齋藤孝氏齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。<写真:読売新聞/アフロ>

 前回は、映画を観てから原作を読んでみると、ストーリーが予想通りだからこそ、サクサク読めるという方法を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

 私は大学で『罪と罰』(工藤精一郎訳、新潮文庫)をテキストに授業をすることがあります。
『罪と罰』といえば、ロシアの文豪ドストエフスキーの代表作であり、世界的名著とされる長編小説(上巻585ページ・下巻601ページ)です。

 本来は学生全員が『罪と罰』を読んでいることを前提に授業を進めたいところですが、大半が読んでいないのは織り込み済みです。
 そこで私は授業の冒頭、こう呼びかけます。

「まったく読んでない人もいると思いますが、心配無用です。さて、下巻の506ページを開いてください」

「えっ? ほとんど終わりのほうだけど……」と、学生たちが戸惑う様子は見て見ぬふりをします。
 そこから7〜8ページを全員で音読してもらうのです。

クライマックスで感動に包まれる

 音読するのは、クライマックスのシーン。
 人殺しの罪を犯したラスコーリニコフという主人公の青年が、ソーニャという娼婦に殺人の告白をします。

 ソーニャが「一緒に十字架を背負いましょうね」と声をかける感動的なシーンです。
 どうしようもない人殺しの青年を受け入れるソーニャの素晴らしさ。
 その精神に胸を打たれるシーンです。

 そんなクライマックスを音読すると、学生たちが「おお!」と声を上げるくらいの感動に包まれます。すかさず私は、こう宣言します。

「ということで、これで『罪と罰』は全員読んだということにします。
 誰に向かっても『読んだことがある』と言い切って大丈夫です。私が保証します。
 周りでなにか失敗した人がいたら『くじけなくていいよ、一緒に十字架を背負いましょうね』と言ってあげてください」

クライマックスだけ読んでも読了した気になれる

 クライマックスを音読して興味を抱くところから始めて、物語をさかのぼって読むのが本来の狙いです。

 音読すると、黙読するよりじっくり深く味わえます。
 ですから、クライマックスの数ページを音読してから、読み始めてみるのもおすすめなのです。

 すべてのページを黙読しても、3年後にはかなりの部分を忘れてしまいます。
 しかし、クライマックスを音読すれば、一生印象に残って、人に話すことができます。
 海外旅行で、その都市の一番いいところをじっくり歩いたら、「その都市に行ったことがある」と言えます。
 音読は「徒歩」、黙読は「バス旅行」にたとえることができるのです。