謝罪を「武器」に変える方法

 このケースからも明らかなように、建設的な交渉をするためには、適切な「謝罪」は必要不可欠だ。

 まず重要なのが、タイミングである。こちらに過失がある場合には、トラブルが発生したらすみやかに謝罪をしたほうがいい。このタイミングを逃すと、相手は一気に態度を硬化させる。そして、交渉不可能な状況を生み出すばかりか、場合によっては、経済的な利害を度外視して、徹底的にこちらを傷つけるために全精力を傾けるという、不合理な状況すら生み出しかねないのだ。

 もちろん、「何について謝罪するのか」(謝罪の範囲)については厳密に吟味する必要がある。

 先ほどのギフトショップのケースであれば、契約不履行については軽々しく謝罪すべきではないだろう。契約内容を詳細に確認したうえで、「どの部分が契約不履行に当たるのか」を明確にしなければならないからだ。

 しかし、少なくとも、「あなた方の希望に添えない部分があったことは、申し訳なく思う。決して、あなた方の希望を損ねる意図はなかった」などと、相手の心情に配慮した謝罪は可能だ。これだけでも、彼らはあそこまで態度を硬化させることはなかっただろう。

 そして、最も重要なのは、すぐに「提案」をすることだ。
 謝罪は一度で十分(あくまで通常のトラブルの場合)。いつまでも謝罪するのではなく、できるだけはやく、共通の利益を掲げるとともに、問題解決のための提案をすることである。

 ギフトショップのケースであれば、「プラスチック・シートの供給を安定化させることがお互いにとって重要だと思います。私たちにも生産調整などの問題がありますので、御社と協議しながらベストの体制を整えたいと考えています」などと提案するのだ。

 この提案によって、「過去」から「未来」に視点を切り替えることを促すと言ってもいいだろう。

 これができれば、「謝罪」は武器に変わる。
 相手がなおも一方的に責め続けるのならば、こちらに道義的な優位性が生まれるからだ。こちらは誠意をもって謝罪をし、未来に向けた建設的な提案を行っているにもかかわらず、いつまでも交渉に応じるつもりがないのならば、「こちらにも言いたいことがある」と攻めに転ずる口実が与えられるのだ。

 そのためにも、あらかじめ、相手側の落ち度について把握しておくとともに、交渉が決裂した場合の代案を用意しておくことが望ましい。いざというときに、交渉決裂を前提に攻勢に転ずる準備をしておくのだ。

 もちろん、このカードは切らないのがベストだ。むしろ、相手の怒りが収まるまで、その気持ちを受け止めるほうがいいだろう。相手の気持ちを汲み取ろうとするスタンスを示しながら、じっと我慢をして耳を傾けるのだ。「交渉決裂カード」をもっておけば、気持ちに余裕をもって我慢できるはずだ。

相手の「怒り」を利用する

 これが、好機をもたらす。
 なぜなら、人間というものは、いつまでも怒ってはいられないからだ。自分の気持ちを吐き出して、相手がそれを受け止めてくれれば、いずれ気持ちは収まってくる。それと同時に、常識的な人間であれば、「少し言いすぎたのではないか」と引け目のようなものを感じ始めるのだ。

 この心理を利用する。
 怒りが収まってきたところで、改めて、未来に向けた「提案」をすれば、相手は引け目を解消するためにも、歩み寄りをみせる可能性が高い。ギフトショップが私の提案に乗って、いきなり訴訟に持ち込むのではなく、調停に入ることを認めた背景にも、このような心理があったはずだ。多くの場合、この局面で、両者の関係性は建設的なものへと変わる。強い信頼関係を生み出すことも稀ではない。正しい「謝罪」は、トラブルを好機に変える力をもっているのだ。

 もちろん、正しい「謝罪」をしても、なおも相手が一方的に責め続けることもある。
 その場合には、やむを得ない。こちらが用意していたカードを冷徹に突きつけるまでだ。その場合にも、道義的な優位性はこちらにある。相手が怒りをエスカレートさせたとしても、「こちらは謝罪もし、建設的な提案もしたのだ。これ以上、あなたの話を聞く義務はない」と突き放してもいいだろう。

 だから、私はこう考えている。
 交渉において、安易な謝罪はしてはならない。
 しかし、適切な謝罪はすべきである。謝罪のポイントは3つ。「タイミング」「謝罪の範囲」、そして「未来に向けた提案」である。この3つを満たす謝罪ができれば、それは、交渉を有利に運ぶための「武器」になるのだ。