仕事に感情を持ち込むと、奇跡がおきる

お掃除が奇跡を生む!<br />大学生とおばあちゃんの物語 クリステン・ハディード
スチューデント・メイド創業者兼CEO
2008年フロリダ大学在学中に、学生のみを雇用する清掃サービス会社「スチューデント・メイド」を起業。彼女が大学生として始めたビジネスである同社は、数百人の人材を雇用するまでに成長しており、業界をリードする離職率の低さ、信頼性、責任感、エンパワーメントの文化が全米で知られる。スチューデント・メイドで仕事をした学生の多くは、自分のビジネスを起業し、世界中の企業で非常に重要なポジションに就職している。スチューデント・メイドは主要メディアで次々と紹介され、著者には同社の成功から学びたいと講演依頼が全米の組織から殺到。現在は、スチューデント・メイドの経営のかたわら、人々に永続的かつ意味のあるインパクトを与える支援をする目的で多くの講演や研修などを行う。
Photo by Pete Longworth

 数日後、マネジメント・スタッフが夜遅くまで残業していたときに電話が鳴った。ミズ・バイロンの息子からだった。

「信じられない話なのですが、死が目前に迫った母に、今すぐかなえてほしい願いはあるかと聞いたら、ミーガンに会いたいと言うのです」
「今すぐ、ミーガンに?」

 そうです、と彼は言った。それがミズ・バイロンのたった一つの願いだ、と。

 残念ながら、ミーガンは臨終に間に合わなかった。彼女は打ちひしがれた。ミズ・バイロンは彼女にとって、とても大切な存在になっていた。しかし、ミズ・バイロンにとって自分がどんな存在だったのか、ミーガンにはわからなかった。

 するとミズ・バイロンの息子が、母がこれほど誰かと親しくなったのは初めてだと言った。そして、遺品の片づけを手伝ってほしい、誰も知らないミズ・バイロンの話を教えてくれないかと頼んだ。

 家族はミーガンに、ミズ・バイロンのお気に入りだった東洋風のラグを形見分けした。彼女はそのラグを今も大切にして、2人の特別な絆に思いを馳せている。

 講演でミーガンの話をするたびに、私は胸が詰まる。人生の最期の瞬間に、清掃サービスのスタッフに、そばにいてほしいと頼む。これこそ、人間関係を育むことがもたらす力だ。互いに自分をさらけ出し、感情レベルで支え合いながら築く絆だ。仕事に感情を持ち込んでもかまわない環境を作ると、このようなことも起きる。

 人を結び付けて強い絆を築くとき、絆に包まれた人々は思いやりを感じる。家族のようなものだ。この変化は波及効果をもたらし、思いやりを感じた人は、次はほかの人を思いやる。ミーガンとミズ・バイロンの奇跡のように。