ギタリストとして芽が出ることはなかったBさんは東京でバンド活動を続けつつ、結婚の必要にも迫られて手に職をつける。その職というのがとび職であった。建築関係の職人という意味では、大工の父と同業種である。

「あれだけ嫌っていた親父と同じ職につくっていうのは妙だけど、自分の中で筋は通っていた。『親父と同じ土俵に立って、その上で打ち負かす』という思いが自分を動かす原動力となっていたかもしれないので」

 そして十数年が経過して30代半ば、父と和解し、Bさんは己を振り返って「親父とそっくりだ」と驚いたそうである。

「ケンカっ早い、世渡りが下手、1つのことに黙々と集中する、父として家族を前にすると寡黙……これらは全部親父からそっくりそのまま受け継いだもの。歳を取ったら嫌っていた親父にそっくりになってしまうんだから、人って面白いというか、意外とアホなんだなと」

 Bさんの根幹には幼少期の頃から父への反抗心があったが、Bさんが目指したのは「父を同じ土俵で打ち負かす」ことで、父と同系統の人間へと成長していった。父への嫌悪は結果としてBさんを育てる強い力となって作用した。

 なおBさんは父そっくりになった自分が嫌いでないそうである。

「今の自分は、自分がここまで頑張ってきた結果なので素直に受け入れたい。結局親父に似てしまったのがなんともいえないけど(笑)、親父は親父なりに頑張ってきたのかなとも思う。

 息子がもう少しで二十歳で、どんどん自分に似てきている気がして心配(笑)」

 父との類似点は父子の紐帯(ちゅうたい)である。願ってか、そうならないことを願ったにもかかわらずか、男性には不可避の力が働いてどこかの部分が父に似てしまうことがある。

 類似点によって父とのつながりを自分の中に見出した時点で、父と父に似た自分を許容できる余裕がその人にあれば幸いである。