ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、アップルvsサムスン訴訟を手がけるなど、世界的に注目を集めるビジネスの最前線で戦っているライアン弁護士の交渉の「奥義」を公開する。

交渉は「意思決定のゲーム」である

 交渉とは「意思決定のゲーム」である。
 合意するにせよ、交渉決裂するにせよ、そこにあるのは交渉当事者の「意思決定」である。そして、相手の「意思決定」を自分にとって有利な方向へ誘導するために、“綱引き”を行うのが交渉と言えるだろう。

 では、その「意思決定」を決定づけるのは何だろうか?
 私は「感情」だと考えている。こう言うと違和感を覚える人もいるだろう。人は論理的に納得するから意思決定するのではないか、と。

 たしかに、意思決定において「論理」は重要な位置を占めているのは疑いない。しかし、「意思決定」の最終的な決め手になるのは、「論理」ではなく「感情」である。いや、「感情」の前で「論理」は無力ですらある。それを、私は、数々の交渉の現場で学んできた。

 印象深いエピソードがある。
 日本メーカーと中国の大企業の間でトラブルが発生し、私が日本メーカーの代理人として交渉に当たっていたときのことだ。交渉は難航をきわめた。お互いに自社の主張を強固なロジックで構築。ツノを付き合わせて、一歩も引かない。歩み寄る糸口すら見つからず、3年もの間、交渉はまったく進展しなかったのだ。

 そこで、このトラブルを調停に持ち込むことになった。調停とは、利害が対立する二者の間に公平な第三者である調停人が入り、妥協点を見出して和解をめざすプロセスだ。調停で和解が成立しなければ交渉は決裂、さらに裁判で戦い続けることになる。和解か訴訟かを分ける重要な局面だった。