ある官庁で余った予算を使い切るために全国各地の食を試食するように命じられた景気調査官が、“取材費”にものをいわせて贅の極みを尽くし食べまくる。そして最後に「一番うまかったのは湧き清水だ」というオチの小説です。そこで出てきた、当時はまだ珍しかった明石焼き(だし汁につけて食べるふわふわの卵焼きのようなたこ焼き)の店を探しまわり新宿で見つけたのが、僕のおいしい店探しの第1号となりました。

 第2位は小松左京氏の『結晶星団』。地球からはるかかなたに、水晶のように見える星団を発見するのですが、一番不思議なのはその中心にあるブラックホールのような“謎の暗黒”。そこから、一度だけ信号のような赤い光が放たれます。その星団の近くには知的種族が多く住んでいるのですが、その暗黒だけはタブーとされた地域でした。その地に地球から訪れた、今でいうAIが挑むという話です。

 そこは、実は歴史の中で自然淘汰された種の意識を神が押し込めた場所でした。いわば神の忠告も聞かずに人類がパンドラの箱を開けてしまったことで、その意識=怨念が怒涛のように飛び出してきます。ただ最後に希望が出てきます。

 この本を読んだ時に味わったのは、むしろ葬り去られた弱者の抱く、悲哀、怒りでした。そのことを今でも鮮明に覚えています。

 そして第1位は石川英輔氏の『亜空間不動産株式会社』。

 ある時、自分の家の壁が崩れて未知の広大な星、それも水にも植物にも恵まれ、それでいて有害なものが何もないという、まさに理想郷とつながってしまうという物語です。

 主人公は不動産屋なので、できればその土地を登記して売りたい。しかし、このドアの存在が知られてしまえば、権力者が介入してきて自分ではどうにもならない。そこで一計を案じ、弁護士を雇って登記を仕掛けて、却下されることで、誰にも登記ができないという筋道をまず立て、その上で、宗教法人を設立します。

 檀家を集め、その土地に自ら宿坊を建てて修行のために留まることを認めるのですが、売るわけにはいかないのでお布施を取るという話です。

 その後の権力者との丁々発止がまさに痛快な物語ですが、SFというベースの上で、かなり練りこまれた法律フィクションでもあり、組織論のフィクションでもあり、「そうか、宗教法人か!」などと発想が研ぎ澄まされました。