この大地のプレーヤーたちは、より大きな売上・利益を獲得したり、時にはルールそのものを変えたりすることで、市場の支配力(パワー)を高めようとしている。そして、その勝敗を左右する武器こそが「戦略思考」である。また、それを下敷きにして展開される問題解決やマーケティングである。

これらについて専門的に解説した書籍は、無数と言っていいほどあるので、ここでは深入りしないことにしよう。

専門家からのお叱りを覚悟であえて乱暴にまとめれば、戦略思考の本質は「自分たちが勝てる目標を設定し、資源を集中配分すること」にある。

正しい目標を設定するためには、現状を分析して、「モレやダブりがないように」課題を切り分けるのが効果的だ。これを端的に表した課題分析のフレームワークが、マッキンゼーの社内用語として生まれたMECE(モレなくダブりなく:Mutually Exclusive, Collectivelly Exhaustive)だろう。

陣地取り合戦をする「戦略の荒野」では、ライバルに負けない強靭な体力を身につける以上に、正面からの衝突を回避して、彼らが見落としている領域をいち早く手中に収める戦略が欠かせない。

そのときに有効なのが、起きている問題の原因などをある程度、網羅的に列挙して、機会の「見落とし」を防ぎ、自分が勝てる目標を設定することである。戦略思考の教科書に登場するフレームワークやロジックツリーなどは、そのための手順をわかりやすくメソッド化したものだ。

この「荒野」のなかで競争相手たちにまだ気づかれていない分野はないか、ライバルたちをうまく出し抜いて領土を奪う道はないか、そのための「目標」を絞り込みながら、資本投下の「選択と集中」を行う。

一方、この「戦略の荒野」の大前提となるモチベーションは、「一番になりたい」「お金持ちになりたい」「モテたい」「負けたくない」などの妄想によって、意外と非論理的に決定されている。妄想と論理のうごめく世界である。

どれだけ戦っても得られないもの

僕が東大法学部を卒業して最初に入社したP&Gは、まさにこの「戦略の荒野」を生き抜いてきた外資系企業だった。

この会社でマーケティング分析やブランド戦略の部署に配属された僕は、論理とデータに基づいたビジネスの基本を叩き込まれた。

P&Gは、市場動向や販売実績に関する調査データを膨大に蓄積しており、それらをあらゆる意思決定のためのエビデンスとして活用するという点で徹底していたのである。