デザイン思考とは、端的に言えば「デザイナーが一定の制作物を生み出すときに行っている思考プロセスを抽出したフレーム」である。これだけではまだイメージがつかないと思うが、より具体的には、そのエッセンスは次の3点に集約できる。

[1]手を動かして考える―プロトタイピング
[2]五感を活用して統合する―両脳思考
[3]生活者の課題をみんなで解決する―人間中心共創

それぞれについて見ていくとしよう。

デザイン思考の特徴(1)
手を動かして考える―プロトタイピング

何か新しいプロジェクトをはじめようというとき、たいてい僕たちは「調査・分析」「企画書作成」「会議」からはじめる。

しかし、なんらかのアウトプットには「頭で考えた計画」が必要だというのは、一種の思い込みではないだろうか?

新しい家を建てるなら、設計図がなければならない。それはそのとおりだ。しかし、新しい家を「発想する」だけなら、設計図づくりは後回しでいいはずだ。

小さな子どもの粘土遊びを横で見ていると気づくことだが、彼らは明確なプランなどないまま手を動かし、そのプロセスのなかでアウトプットに修正を加えていく。

最初は「粘土で『おうち』をつくっているの」と言っていても、最終的には「くるま」や「ゾウさん」が出来上がることも珍しくない。わかりやすく言えば、彼らは「手で考えている」のだ。

実際、デザイン思考のモットーの1つに「Build to Think(考えるためにつくる)」というものがある。まず手を動かしてみて、そのなかで発想を刺激し、新しいものをつくりあげていく――これは芸術家やクラフトマンの世界で経験則的に磨きあげられてきた方法論だ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)教育学部教授だったシーモア・パパートは、これを構築主義(Constructionism)という学習モデルに落とし込んでいる。

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVENパパートが提唱した「構築主義」の学習モデル

構築主義の核心は、緻密な計画に先立って、まず不完全なアウトプットを行い、それを起点に対話・内省を促していくということにある。このような試作品のことをデザイン思考の世界では「プロトタイプ」、そしてそうやって試作品をつくる行為を「プロトタイピング」と呼ぶ。