文系だから読めないが通用する時代ではなく、「ビジネススキル」としての「数字を読む能力」は求められています。ましてや、経営者は財務戦略を敷くにあたり、「数字が読めない」では、通用しません。新刊『財務諸表は三角でわかる 数字の読めない社長の定番質問に答えた財務の基本と実践』から一部抜粋し、わかりやすく紹介していきます。

自社の経営にどう活かすか、
自社の財務戦略をどのように立てるか

 中小企業の経営者は、営業力や技術力、新しいビジネスモデルを創造する発想力など、みなさん、さまざまな能力を活かして起業されたり、会社を引き継がれたりしています。

 ただ、残念ながら、そういった能力がある中小企業の経営者でも、会計の知識はほとんどありません。ましてや、簿記を勉強している人はごくわずかでしょう。

 しかし、企業の経営活動はすべて複式簿記で会計処理され、財務諸表(いわゆる決算書)、主に貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッシュフロー計算書(C/S)の3種類で表現されます。

 つまり財務諸表がわからないと、自社の本当の実力を把握したり、適切な戦略を立てたりすることができないのです。

 にもかかわらず、多くの経営者が会計を勉強しないのは、とっつきにくいと思っているからではないでしょうか。

 また、会計処理は顧問税理士に任せているという方も多く、自分で何かしなくても月次の試算表や財務諸表が出てくるので、中身がわからなくても顧問税理士が作っているから正しいんだろうし、専門家が見てくれているから大丈夫だろうと思っています。

 しかし、経営者が期待しているほど、きちんと試算表や財務諸表を分析し、今後の戦略を提案できる税理士は、実際にはほとんどいません。なぜなら、税理士は税金の専門家にすぎないからです。

 税金を計算するために必要だから会計処理をしているだけなのです。

 そんな状況のなか、数字に強くない経営者のために上梓したのが本書です。財務諸表を少しでも理解できるように、会計がわかる本を買って読んでみるものの理解できたようなできなかったような……そんなモヤモヤを取り払った内容となっています。

 会計の解説書は、上場企業などの財務諸表をサンプルに解説しているケースがほとんどですが、上場企業と中小企業の財務諸表は、規模はもちろん、会計基準も違うので参考にならないケースが多いでしょう。また、財務戦略に関しても上場企業は必要なお金を市場から資本として調達できますが、中小企業で資金を投資家から集められるところは非常に少ないですし、集められても上場企業の新株発行に比べると桁が違いすぎます。

 上場企業向けのさまざまな財務分析の指標も、中小企業の財務分析には役に立たないので必要ありません。

 そもそも、中小企業の経営者にとって必要なのは、財務諸表を理解することよりも自社の経営にそれをどう活かすか、自社の財務戦略をどのように立てるのかを考えるために財務諸表を読めるようにすることなのです。

 本書の第1章では、数字の読めない社長からの質問に回答していく形式にし、多くの経営者がいつも疑問に思っているであろうことを解消してもらうなかで、会計の観点から財務諸表を理解できるようなプロセスにしました。

 第2章では、企業の「調達」「投資」「回収」の3つのプロセスにより財務諸表がどのような形になっていくのかを丁寧に追っていきます。特に理解が難しいB/Sは、三角でイメージすることで感覚的にわかるようにしています。

 第3章では、実際に自社の財務分析をして経営に活かすという観点から、中小企業の財務諸表の直し方を解説します。

 中小企業の財務諸表は赤字を隠すための粉飾や節税対策などによって、その会社の実態を表していない可能性が高いのです。まずは、財務諸表を実態に即した内容に直さないと分析しても不適切な結果が出てしまいます。

 さらに、ほとんどの会計の解説書には税務申告書や勘定科目内訳明細書の説明がありませんが、出口戦略、財務戦略、銀行対応に大きな影響を与える部分があります。マニアックな解説をしても意味がないので、必要な項目を3点取り上げてまとめました。

 第4章では、実態に修正した財務諸表をもとに自社の分析をするなかでこの状態だとヤバいという財務諸表の例を取り上げました。

 経営者は意外に自社の財務諸表の問題に気づいていないケースが多く、特に第3章のとおりに実態に即した内容に修正するとヤバくなる企業が多いと思います。

 第5章では、第4章のような状況からでも財務諸表を強くしていけることを示すため、第1章で2代目社長が悪化させてしまった財務諸表を再生させていきます。

 このプロセスを通して、みなさんの会社の財務諸表をより強くしていく財務戦略のヒントになれば幸いです。

 企業の経営にとって、ビジネスモデルと財務戦略は両輪です。財務戦略のベースは、みなさんの会社の財務諸表です。ぜひ財務諸表を経営に活かし、ビジネスモデルを支える財務戦略を立案し、強い中小企業になっていただきたいです。