相談の内容
「司会で失敗、人前で話せなくなった」

 ただでさえ苦手で、日頃から大変な負担となっているプレゼンテーションなど、人前で話す業務。4ヵ月前、学生向けの会社説明会で司会を務めたとき、ひどく緊張して声が震え、脂汗が出て、この時は、手足や首まで震えてしまいました。

「参加者が自分の緊張に気づいて、変に思ったのではないか?」と思うと、ますます声も体の震えも増して、恥ずかしさ、情けなさに襲われてしまいました。それ以来、また同様に震えるのではないか?と心配になり、人前での発言が思うようにできなくなり、次第に職場の会議に出ることすら苦痛になってきました。このままでは、せっかく築いた上司の信頼、会社の評価にも影響してしまう、仕事を外されてしまうのではないか、と悩んでいます。

中村医師の回答
不安も自然、承認の欲求も自然

◎リラックスしようと努めれば努めるほど、緊張がつのります

 上記の症状と経過から「社交不安症」と診断しました。初診時、患者さんは「人前ではなるべくリラックスしようと努めるが、うまくいかない」とおっしゃっていました。

「緊張しないように努めれば努めるほど、ますます自分の状態を意識して緊張が募っていく」という悪循環を指摘したところ、納得のいった様子でした。また患者さんの「周りの人たちから変に思われないか」という不安の裏には、「よく思われたい、認められたい」という強い希求があること、「悪く思われはしないかという恐れと、よく思われたいという願いは、ともに私たちの心の自然な両面である」ことを伝えました。

「薬はなるべく飲みたくない」という患者さんの希望に沿い、外来で森田療法的に助言していくことを治療の方針としました。

◎話し上手より、聞き上手を

 再診以降、不安や緊張に対する患者さんの姿勢を診察で取り上げ、無理に緊張を解こうとせず、緊張するまま会議を避けずに出席するよう促しました。その後しばらくの間は、何とか会議には出ているものの、発言を求められないよう、なるべくうつむき黙っているとのことでした。

 私は「話し上手より、聞き上手を目指すように」と伝え、他人の話に耳を傾けることを促しました。患者さんもそのようにすることで、注意が自分ではなく相手の話題に向かうことになり、結果的に緊張が緩和されることに気づいていきました。やがて自分が会議でプレゼンしなければならない日がやってきました。