「日本」と「海外」。交渉の違いは?
ライアン ところで、金澤さんは、日本国内の交渉と海外の人との交渉とで、違いを感じることはありますか?
金澤 ありますね。いちばん違うと感じるのは、1回の交渉の「スピード感」です。
日本の会社では、会ったらまず天気の話をしたり、「ここまでの道はわかりましたか?」という話をしたり、当たり障りのない話題で距離感を計りますよね。
でも海外の人はいきなり本題に入ることが多いかもしれないですね。冒頭に「今日はこの2時間でこれを決めたいんだ」と、単刀直入に言われることも多いです。忙しい中、面談のためにに費用や時間を費やしているという意識もあるのかもしれませんがとにかく「決めたい」という熱量を強く感じます。「この場で決められないのなら、あなたは何をしにここに来たの?」というピリピリした雰囲気になることも多いですよ。
ライアン それはすごくわかります。
日本の会社の交渉は、とても「品がいい」。交渉に臨む前に、社内で「今回の交渉はここまで進める。その続きは次回」と範囲を決めて、それをきっちり守ろうとする。確かにその進め方では失敗するリスクは抑えられるし、安心できる。でも外国人の感覚からすると、じれったく感じることもあります。「ここまでスムーズに交渉が進んできて、まだ時間もあるんだから、最後まで決めてしまおうよ」と。
金澤 日本の会社はチームプレイを重んじることが多いからかもしれないですね。「1つのプロジェクトについて、交渉の場につく人、会社で待つ人、みんなで交渉している」という意識が強いのかもしれません。だから交渉の場につく人のスタンドプレイでプロジェクトが進んでしまったら、社内も混乱しますしご迷惑をおかけすることにも繋がりかねません。
ライアン なるほど。社外での交渉のときには、事前に社内で「このラインを超えたらアウトだよ」とか、「ここまでは金澤さんの裁量で決めていいけど、これを超える場合には持ち帰ってきなさい」という条件を握り合うんですか?
金澤 そうですね。あとは、例えば交渉の場に弊社から3人が参加するときには、その3人の間で事前によく協議して細かいところまでコンセンサスを取り目線を合わせるようにしています。『交渉の武器』の中にも、映画『ゴッドファーザー』の一シーンを例に挙げながら「交渉の場で一枚岩ではないことを悟られると命取りになる」と解説している一節がありますよね。
ライアン よく読んでくれていますね(笑)。その通り。あの映画の悲劇は、交渉のなかの一瞬の「過ち」が導火線に火をつけたと私はみているんです。だから、交渉チームのなかでは、認識をがっちりと揃えておく必要がありますね。
金澤 ええ。さきほどの話に戻ると、「交渉の場」で決められるかどうかは、社内での信頼度に関係があるように思います。経験を積んでくると、上司のほうも「ここまでは金澤に任せて大丈夫」という範囲を広げてくれるようになります。
そして、仮に本意ではない決着で社に戻ったとしても、「こういう状況で仕方なかったから、金澤はここを落としどころにせざるを得なかったのだな」とわかってもらえるようにもなります。そのような信頼関係と入念な事前協議があれば、交渉途中で持ち帰ることなく自分の裁量で決断できるようになります。
交渉の場で相手と対等に、そして「自然体」に振る舞うためには、このような上司との信頼関係も重要だなと感じます。
ライアン そうですね。信頼関係が強固なものになってくると、交渉の場での自由度も増す。すると建設的な交渉もしやすくなる。好循環が生まれるんですよね。私の本がビジネスの現場でも役に立っていることがわかって安心しました(笑)。今日はありがとうございました。
金澤 こちらこそ、ありがとうございました。
(対談日:2019年2月6日)