加齢性難聴が招く
最大のリスクは「認知症」

 しかし、「生活には困らないことを理由に難聴を放置するのは考えもの」と新田医師は指摘する。

「2017年の国際アルツハイマー病協会会議において、ランセット国際委員会は『認知症症例の約35%は9つの危険因子に起因する』という研究結果を発表しました。その9つの危険因子のうちのひとつに『難聴』が指定されたのです。つまり、中年期からの難聴は『認知症リスク』を上げる可能性があるのです」

 ランセット国際委員会の研究結果(Livingston G, et al. Lancet. 2017 Jul 19.)によると、「中年の高血圧」や「晩年のうつ病」などの危険因子のなかで、もっともリスクが高かったのは「中年期の難聴」だったという。(「先天性難聴」や、片方の耳が重度の難聴になる「一側性難聴」の場合は、この限りではない)

「現状では、難聴と認知機能の低下との詳しい因果関係は明らかになっていません。ただ、聴力の低下によって、脳を使わなくなることが認知症のリスクにつながるという仮説が立てられています」

 また「難聴は、ただ単に音が聞こえなくなるだけではない」と新田医師。音の大小にかかわらず、言葉そのものが聞き取りにくくなってしまうという。

「加齢性難聴によって、音を認識する脳の『側頭葉』が劣化すると、言葉がゆがんで聞こえるようになってしまうのです。すると、会話中も相手の言葉がわからなくなり、人とコミュニケーションをとるのがおっくうになって社会から孤立してしまうケースも少なくないです。社会とのつながりや、コミュニケーションによる脳への刺激は認知症の予防に必要不可欠。重度の難聴は、社会からの孤立と、脳機能の低下を加速させる要因になりかねません」

 認知症リスクのほかにも、うつや運動能力の低下など、難聴による悪影響は数多く報告されている。難聴を放置し続けると、大きな代償を払うことになるのだ。