「Lean in」とは、「一歩踏み出すこと、挑戦すること」。Facebook COOのシェリル・サンドバーグは、夫を亡くした悲しみや苦しみから立ち上がっていくときに、「レジリエンスという力が大事だ」と気づかされたと言います。彼女が率いるグローバルな市民活動のRegional Leader(地域代表)として活動している一般社団法人Lean In Tokyoが開催したイベントのメインテーマは、「逆境を乗り越えて、一歩踏み出す」。登壇した鈴木美穂さん(認定NPO法人マギーズ東京・共同代表理事)と村木厚子さん(元厚生労働事務次官)の対話を通じて、逆境を乗り越えてきたお二人ならではの心の持ちようが見えてきました。(この連載は、3月24日に東京・有楽町のEY Japan株式会社オフィスで行われた対談イベントのダイジェスト版です。質問者はLean in Tokyo運営事務局の吉川縁さん。構成:古川雅子)

逆境は仏様からの宿題
「私のお題は記述式だった」

村木厚子(むらき・あつこ)
1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、78年、労働省(現・厚生労働省)入省後、雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長などを歴任。2009年、郵便不正事件で逮捕、10年、無罪が確定し、復職。13年から15年にかけて厚生労働事務次官を務めたのち、退官。現在は、伊藤忠商事社外取締役等を務めつつ、困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」で少女・若い女性の支援も行う。著書に『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社)、『日本型組織の病を考える』(角川新書)などがある

村木 私は、身に覚えのない郵便不正事件で逮捕、起訴されて、5ヵ月に渡って拘置生活を送った後に、いろんな人から励ましの言葉をもらって、印象に残る言葉があったんですね。「村木さん、捕まってくれてありがとう」って言われたことがあって(笑)。

鈴木 えぇ?

村木 日本の司法の歪みというのか、無理な取り調べをする自白偏重主義がまかり通った結果、虚偽の自白をさせられるのが冤罪を招く原因にもなる、とかいうことを世の中に訴えるときに、まぁ、私が冤罪事件に巻き込まれたことで、「発言できる人が一人増えた」っていうのがあって。それで、「捕まってくれて、ありがとう」と(笑)。私も、「あ、そうか。私が捕まったことが役に立つんだ」っていうふうに思えて、それからは、「じゃあ、できることをなんかやろうか」っていうふうにすごく思えたんですね。

 で、無罪が確定して勾留生活が終わってからは、酒井雄哉さん(千日回峰を二度も満行した天台宗大阿闍梨)っていう、すごい偉いお坊さんに会って、その時こう言われたんですよ。酒井さんは、「カッカッカ」って笑って、「村木さん、仏様に論文書かされれたんだよ」って。私は、「あ、そうか。私に与えられていた課題は、記述式だったんだ」、「私のお題はこれだったか」と思えて。

鈴木 マークシートじゃなくて(笑)。

村木 鈴木さんは、「がんになって、神さまから試練を与えられた気がした」と感じられたんですよね? 私も、「世の中の人は、みんなお題を貰って生きている。みんな何かしらの答案を書かされるんだよなあ」という気持ちになれて。酒井さんのお話を伺ってからは、「私のお題、これでした」みたいなことを言いやすくなって、すごい楽になりましたね。みんな、それぞれのお題を貰っているのだから、自分で答えを書く時にもいろいろな人と助け合いながら、「あなたのお題は何?」「ああ、私はこれだったよ」みたいにフランクに言い合いながら課題を乗り越えていけたら、人生楽になるかなぁと思って。