日々のあらゆる悩みを1冊のノートで解決する

 2007年、僕はネオン輝くニューヨーク市の中心地、タイムズスクエアにある大手ファッションブランドの本社でウェブデザイナーとして働き始めた。その会社に勤務していた女性に仕事を紹介してもらったのだ。

 その頃、彼女は自分の結婚式のプランを練るのに大忙しで、そのうえ苦戦していた。デスクにはノート、付箋、パンフレットなどが数センチもの高さに積みあがっていて、その散らかりようといったら、犯罪ドラマで共犯者たちが地図を広げ、浮足立って共謀しているようだった。

 職を紹介してくれた彼女に恩返しをしたいと、僕はずっと考えていた。そこで、ある日、また見当たらないメモを探してあちこち引っくり返している彼女に向かって、よければ僕のノートの使い方を教えようかと、おずおずと切りだした。

 彼女は驚いたように眉を上げると、ぜひ教えてちょうだい、と言った。しまった。なんてことを言いだしちまったんだろう? 自分のノートの中身を見せるということは、頭のなかをのぞき込まれるようなものなのに……。

 数日後、彼女とコーヒーを飲みにいった。そして少し時間をかけて、僕が編みだしたノートのつけ方を、たどたどしく個人指導した。思考を整理する方法──バレット、システム、テンプレート、反復サイクル、リストなど──について説明していると、素の自分をさらけだしているようで、ひどく無防備な感じがした。僕にとって、こうした手法は、うまく機能しない脳をスムーズに動かすために自力で編みだした、数々の松葉杖のようなものだったからだ。

 話しているあいだは、彼女と目を合わせないようにした。そして説明を終えると、恥ずかしくていたたまれない気持ちになり、視線を上げた。彼女があんぐりと口をあけていたので、いっそう恥ずかしくなった。やっぱり呆れられたんだ。耐えがたい沈黙がしばらく続いたあと、ついに彼女が口を開いた。

「これ、みんなとシェアしなくちゃダメよ」

 この不器用な個人指導のあと、あのノート術をシェアしなさいと、彼女から何度もせっつかれた。でもじつは数年前から、デザイナー、ソフトウェアの開発者、プロジェクト・マネジャー、経理担当者といった人たちから、「きみが肌身離さずもっているそのノートにはなにが書いてあるの?」と尋ねられることがあって、どうにか説明できるようになっていた。

 ときには、日々のスケジュールを立てる方法について尋ねてくる人もいた。そうした人たちには、タスク、イベント、メモなどをすばやく記録する方法を説明し、やり方を実演してみせた。

 また、目標の設定の仕方について尋ねられることもあった。そんなときには、将来の目標に向けて行動計画を立てるやり方を実際に見せた。また、メモや付箋といったものが散らかっている状態を少しでも解消したいと思っている人には、メモやプロジェクトの計画などをすべて1冊のノートに手際よくまとめる方法を紹介した。

 何年もかけて独自に編みだしたノート術が、これほど幅広く応用できるとは、僕自身、夢にも思っていなかった。それでも実際のところ、これこれこういう問題に悩んでいるんだよと誰かに言われたら、僕のノート術に修正を加えて応用するのは簡単なことだった。

 やがて、僕はこう思うようになった。物事を整理して考えるのがむずかしいと、大勢の人たちが悩んでいる。でも、このノート術をシェアすれば、僕が子どもの頃に味わったような挫折感にみんなが苦しまずにすむかもしれない。いや、少なくとも、あれほどには苦しまずにすむはずだ、と。

 たしかに名案に思えたけれど、このノート術を公開するのであれば、もう行き当たりばったりのやり方で、たどたどしい説明をしたくはなかった。そこで僕はこのノート術をきちんと体系立て、無駄をはぶいて、長い歳月をかけて編みだしたもっとも有効なテクニックだけを残すことにした。

 このノート術には前例がなかったので、独自の用語も考えださなければならなかった。用語が決まると、このノート術の説明が簡単にできるようになったし、みんなも覚えるのが楽になったはずだ。

 さて、ここまできたら、このノート術に名前をつけなくては──そのスピード、能率のよさ、特徴、目的を体現するような名前を。そこで僕は「バレットジャーナル」と呼ぶことにした〔訳注:Bullet(バレット)は本来「弾丸」を意味するが、ここでは箇条書きの一項目を示すドット(・)を指す〕。