ファクト(事実)の羅列だけでは
自信を失ってしまう
我究館 館長
横浜国立大学を卒業後、株式会社リクルートに入社。2009年、株式会社ジャパンビジネスラボに参画。現在までに3000人を超える大学生や社会人のキャリアデザイン、就職や転職、キャリアチェンジのサポートをしてきた。難関企業への就・転職の成功だけでなく、MBA留学、医学部編入、起業、資格取得のサポートなど、幅広い領域の支援で圧倒的な実績を出している。また、国内外の大学での講演や、執筆活動も積極的に行っている。著書に「絶対内定」シリーズがある。
熊谷 でも、よく学生たちから「ワークシートを書いても書いても、自己分析が深まっている気がしない」という相談を受けるんです。前田さんの『メモの魔力』を拝読したとき、この方法論とワークシートを組み合わせると、ものすごく相性がいいんじゃないかと思ったんです。「具体と抽象を行き来する」なんて、まさにわかりやすいですよね。
前田 確かに就活生のとき、自己分析ノートをそれこそ30冊くらい書いたんですけど、そのときのノートの取り方と『メモの魔力』で提案した方法論には、共通点があるんですよ。具体的な「ファクト」を書いて、その要素を抽出して「抽象化」したものを横に書いて、さらにその横に他のことに活用できるよう「転用」する、という。
熊谷 大学生がいざ就活をはじめようとすると、どの大学のキャリアセンターでも「まず自己分析しましょう」とアドバイスされます。そして「自分に合った業界を見つけましょう」みたいな感じですけど、そもそも自己分析のやり方や、自己分析で何を掘り下げていけばいいのか、そこからどうやって行きたい業界を絞り込むかについては、きちんと教えてもらっていないんですよね。で、中途半端に自己分析すると、ダメな自分ばかりが見えてきて、自信を失ってしまう。
箕輪 わかる。「普通の大学生だし、別に何の才能もない」みたいな。
熊谷 「サークルで副代表務めてました」とか「インターンしてました」とか、一見、ありふれたように見えるかもしれないけど、きちんと掘り下げていくと、その中で磨かれた価値観や個性、乗り越えたコンプレックスや葛藤が見えてくる。「その『見えてきたもの』こそが才能なんだよ!」と、学生たちには伝えているんですけどね。
前田 僕も、最低でも2日に1回は採用面接を行うのですが、「具体と抽象」の思考回路が1セットになっている人でないと、正直厳しいかも、感じてしまいます。
「ゼミで副幹事を務めていました」という事実(具体)で終わるのではなく、自分を俯瞰して、幹事を支えているうちに何に気づいて、どんなことで貢献できると考えたのか(抽象)、とか。そこまで知りたいんです。
箕輪 なぜ「ゼミで副幹事を務めていました」というだけ、「具体」オンリーがダメなのかというと、具体事象のままでは横展開できないからなんですよね。
自己分析は
「盛る」ものだと勘違い
熊谷 そうなんです。100枚近くある『絶対内定』のワークシートにただファクトを羅列して書いただけで、抽象化することなくそこで満足してしまって。もちろんファクトを書き出すだけでも大変なのですが、それで終わってしまうと、「えっと……結局何がしたかったんだっけ?」と。たくさんの事実を前に、就活生の多くが混乱してしまっている。大事なことは、その先の、まさしく「抽象化すること」なんですが……。
箕輪 自己分析って、勘違いしている人が多い。僕も学生時代就活してたときにミスったのは、「内定もらえるように自己分析すればいいんでしょ」って、思ってたんですよ。自己分析して、「掘る」ではなく「盛る」ためのエピソードがあればいいと思っていた。でも早稲田で杉村さんの話を聞いて、自己分析を通じて「本質を掘る」作業をするのに意味があることを思い知らされたんです。
前田 自己分析の意義として、「企業にアピールするために自分のことを語れるようになる」ことに目が向きがちだし、きっとそう考えている人が9割くらいなんじゃないかな。ただ、本質的には、それ以上に「自分の『人生の軸』を築いて、それに基づいて生きていけば、内定しようがしまいが、幸せになれる」ことに気づけるかどうかが最重要なのかなと思います。