平井体制を引き継いだ吉田氏は、平井ソニーの方針を引き継ぎ着実に成長させるのには、適した経営者であるといえる。しかし、ソニーの「次の一手」というようなアドバルーンをぶち上げるようなタイプの経営者ではない。ダイナミックなソニーらしさの変化をもたらせるかどうか、そこに現在のソニーに対する不安があるといえるかもしれない。

 ソニーの経営陣は、たまたま育った優秀な経営者を取り上げるというやり方のように見える。同社が組織的に仕掛けをつくって、次の経営者を育てているようには見えない。幹部研修も行なっているが、それによって本当の意味でソニーの経営者が育てられているという感じはない。

 一方で、幹部研修をシステマティックに、実行力のあるものとして行っているのがパナソニックだ。以前、大阪大学の中川功一准教授と話していたときに、「パナソニックとは定期的にリーダーが求められる時期が来て、そこに必ず適任のリーダーがいる会社だ」と語っていた。

 これは、パナソニックの経営を極めて的確に述べていると思う。パナソニックの幹部研修は、本気で次のリーダーを育てている。人を育てる松下幸之助氏の思想が今でも根付いているのだと思う。

新たなリーダーを育てられる
組織的な仕掛けをつくる必要

 一方、ソニーはそういう会社ではない。創業者の一人、井深大氏は「ソニーもここまで大きくなってもうかったから、会社を清算して社員みんなでお金を分けてもいい」と述べたことがある。本気で解散する気はなかったであろうが、ソニーの役割が固定的に、永続的なものになるとは考えていなかったことを示している。

 それ故に、ソニーの弱点は「これがソニーの経営である」ということを次の世代にシステマティックに伝える仕掛けがないということである。井深氏の言葉に反して、これからもソニーという会社を持続的に成長させていくためには、ソニーの次の「らしさ」をダイナミックに定義できるリーダーの出現が必要であり、それをこれまでのように偶然に任せていてはいけないのではないだろうか。

 型通りの経営研修ではない。「ダイナミックに変化するソニー」というふわふわしたものを理解し、把握し、新たに定義できるリーダーを育てる組織的な仕掛けが、ソニーには決定的に欠けているのではないだろうか。

(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)