まず、製造業が工場を海外に移すと、投資収益収支の黒字が拡大すると期待できる。投資であるから海外工場がもうかる場合も損する場合もあるだろうが、期待値としては対外証券投資より対外直接投資の方が利益率は高いはずだ。
リスクがある投資案件は、それに見合った期待リターンが見込まれる場合のみ投資が実行されるからである。
統計からも、それが確認できる。対外純資産残高の統計では、対外直接投資は対外証券投資の半分以下であるが、経常収支の統計では、直接投資収益は証券投資収益とそれほど異ならない。つまり、対外直接投資の方が収益率が高いのだ。
加えて、サービス収支の中の知的財産権等使用料(特許料等)の受け取りも増加すると考えられる。同項目は、昨年度の受取額が5兆円に上る重要な項目であるが、その多くは現地子会社からのものだと思われるからだ。
したがって、貿易収支の赤字を対外投資収益等が補って、経常収支は当分の間は黒字を続けるだろう。
将来的には、労働力不足が一層本格化して、海外に輸出するものを作る余裕がない時代になるかもしれない。そうなると、経常収支は赤字になるだろう。
それでも、日本は莫大な対外純資産を持っているので、外国からの借金をしなければいけない状況に陥ることは考えにくい。
政府が財政赤字を続けていても大丈夫なのは、国内で赤字がファイナンスされているからであって、外国から借金をするようになると、政府が破産する可能性は一気に高まってしまう。しかし、そうした事態には陥りそうにない。
仮に対外純資産がなくなってしまうほど経常収支の赤字が大幅であれば、相当大幅な円安になるだろうから、輸出企業が「高い給料を払ってでも労働者を集めて国内で生産して輸出しよう」と考えるはずだ。したがって、その場合でも対外純資産の赤字が拡大することにはならないだろう。
いずれにしても、「日本の輸出が減ることは、それほど大きな問題ではない」という時代になりつつある。今のうちに、「日本経済は輸出頼みだ」というこれまでの思い込みを転換しておく必要がありそうだ。