前者は、「副業をする暇があれば本業のために働け」という会社人間の発想によるものだが、本来、仕事の成果は時間とは切り離して評価するべきだ。勤務以外の時間を何に使うかは労働者の自由である。「副業で疲労が蓄積すれば本業に差し支える」というが、それは毎晩飲み歩いていても同様であり、プライバシーの侵害といえる。

 後者は、本業と副業双方についての「労働時間の通算」の義務付け(1947年制定の労働基準法第38条)と、残業について割増賃金の支払いを副業先の使用者に求める規定が大きな妨げとなっている。この規定は、同一使用者の残業代の不払いを防ぐために「異なる事業場でも労働時間は通算する」というのが本来の趣旨である。しかし、その翌年の局長通達で「事業主を異にする場合をも含む」との拡大解釈が、今日の副業の大きな障害となっている。

 残業割増賃金の目的は、使用者が安易に残業を強制することの防止であり、労働者が自発的に他の企業で働く場合に適用することは筋違いである。また、主たる勤務先の使用者が副業先での労働時間を把握するのはきわめて困難であり、労働者の自己申告に依存せざるを得ない不透明な規制である。

 ちなみに、副業についての労働時間の通算はEU諸国でも行われているが、これは労働者の健康管理を目的とした努力規定で、割増賃金は一切適用されていない。

 こうした実効性はないが、主たる使用者にとって、何か問題が生じれば責任を問われかねない曖昧な規制が、日本企業による副業原則禁止の背景となっている。雇用の流動性を高める副業の促進を政府の基本政策とする一方で、それを妨げる70年前の局長通達を放置することは大きな矛盾といえる。

テレワークの促進を阻む
「労働時間規制」

 テレワークは、他の先進国では高学歴・高所得層を中心に、5人に1人程度の割合で普及している(総務省「テレワークの海外普及動向」)。日本でも情報通信機器の発達で、この「時間や空間の制約にとらわれることのない働き方」は、技術的には十分に可能である。専門職にとって自らの業務に集中して働くためには、わざわざ地価の高い都市中心部の個室でなくとも、自宅やサテライトオフィス等を活用することで、通勤に無駄な時間をかけずに時間当たりの生産性を高めることができる。