さらに、育児や介護等との両立の難しさや、家族の転勤等に伴う社員の不本意な離職を防ぐなど、利点が大きい。政府も『世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画』のなかで、2020年までに雇用型テレワーカーを2016年度(7.7%)比で倍増させる数値目標を掲げているが、実現にはほど遠い状況である。

 これは、テレワークという新しい働き方に対しても、工場労働と同じ厳密な労働時間管理を使用者に強いる、伝統的な労働法制の制約が大きい。日本の労働時間規制は、全員が一斉に働き、一斉に休む工場労働の働き方を前提としている。工場では1時間余分に働けば、1時間分の生産量が確実に増えることから、時間の長さに応じた賃金支払いが合理的である。また、深夜や休日に働く場合には、労働者の負担増に応じた割増賃金(基礎賃金の25%と35%増)が必要とされる。

 しかし、テレワークの大きな利点は、通勤時間の制約から解き放たれるだけでなく、在宅等で、自らの勤務時間と生活時間とを自由に組み合わせて働けることにある。個人の事情に応じて、例えば、共働きの場合に、昼間の時間を休息や家庭生活にあて、深夜や休日にまとめて仕事をする選択肢もある。それにもかかわらず、工場やオフィスでの集団的な働き方と同様に、「働き過ぎを防ぐために」厳密な労働時間管理が必要とされている。

「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(2018年2月22日)」では、テレワークでの長時間労働を防ぐために、時間外・深夜・休日における、役職者からのメールの自粛や社内システムへのアクセス制限だけでなく、テレワーク自体の禁止まで挙げられている。

 こうした労働時間管理に関わる過度な規制が、テレワーク本来の「時間や空間の制約にとらわれない自発的な働き方」が普及しない大きな要因となっている。テレワークの働き方は「在宅等の一定の場所に限定した裁量労働」と明確に位置付けなければ、その効果を十分に発揮できない。残業代至上主義の工場労働的な発想を捨て、情報化社会に相応しい労働時間制度への改革が必要とされる。

 それでもテレワークは、個々の企業の努力で細々と進められているが、情報通信分野は総務省、労働分野は厚労省という縦割りの弊害が大きな障害となっている。情報化時代にふさわしい大胆な規制改革を進めなければ、サービス産業の生産性向上や人手不足解消のための有力な手段としてのテレワークの活用は、諸外国と比べて、いつまでも一向に進まないままとなろう。

(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)