社会派ブロガーとして人気を博すちきりんさんの最新作『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』発刊を記念し、ちきりんさんとLIFULL HOME'S総研所長であり、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会の設立発起人でもある島原万丈氏の対談が実現。現代の日本が「住」に抱える問題点が次々に浮かび上がっていく。

対談の最終回となる第5回では、リノベーション住宅推進協議が必要になる理由を含め、ちきりんさんを交えて、いま一度、リノベーションの価値や注意点について考えていく。(第1回はこちら。)

リノベーションなら日本の課題を解消できる

ちきりん 島原さんはリノベーション住宅推進協議会の設立発起人でいらっしゃいますね。どういった必要性を感じての設立だったのでしょうか。

島原 2009年に立ち上げたのですが、僕は以前までリクルート住宅総研で調査レポートを作る仕事をしていました。毎年、お題を立てて、独自の調査レポートを作っていたんですが、その頃から「中古住宅の流通活性化」は当時の日本にとっての課題だったんですね。スクラップアンドビルドばっかりしていてもエコではないし、お金もかかってしまう。だからこそ、国策として中古住宅の活用は大きなテーマだったんです。

実は、今のような仕事をする前、住宅とは無縁の仕事をしていた時に、自分自身も住宅を買おうと考え、いろいろ見て回った結果、中古住宅はどうにも納得できず、土地を買ってちいさな家を建てることにした経験があるんです。新築マンションは、その画一性と間取りの不満がかなり大きかったんですが、そんなマンションがただ古びただけになっている中古はもっと嫌で。思い通りの住まいに住むなら注文住宅しかないと思ったんです。

ただ、そのレポートの制作を検討する過程で、欧米では中古住宅に住むのは当たり前らしい、と知ったんです。そこでアメリカなどで、仕事としてさまざまなご自宅を拝見させていただくことしました。それで考えが改まったんです。「リノベーションであれば、マンションであっても、オーダーメイドで自分好みの部屋を作れるじゃないか!」と。

島原万丈(しまはら・まんじょう)
株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長
1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)でLIFULL HOME’S総研所長に就任し、2014年『STOCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市]』、2017年『寛容社会 多文化共生のための〈住〉ができること』、2018年『住宅幸福論Episode1 住まいの幸福を疑え』、2019年『住宅幸福論Episode2 幸福の国の住まい方』を発表。主な著書に『本当に住んで幸せな街 全国官能都市ランキング』(光文社新書)がある。

ちきりん スケルトンにした室内リフォームなら、間取りそのものから変えられますしね。

島原 中古マンションなら取得費用が押さえられますし、資産価値としてもすでに落ちていることを前提にすれば、それよりも下落することもないだろうから、目減りも少ない。ただ、それを思い立った2008年時点では、SUUMOという不動産情報サイトを有するリクルートであっても、まだまだリノベーションに対する理解や認知が乏しいという状況でした。

ただ、「日本の中古住宅を動かすにはリノベーションしかない!」と信じて、Googleと日々格闘し、めぼしい会社を訪ねて、情報を蒐めてレポートを作っていったんです。

ちきりん リノベーションを打ち出す会社がずっと少ない時代から調べてらしたんですね。

島原 話を聞いてみると、先駆的に始めた会社はあっても、それらに「横のつながり」がない現状が見えてきました。一口に「リノベーション会社」といっても、出自は不動産会社、設計事務所、リフォーム業者とさまざまありますが連携できていない。それならば、と集まって話す機会を設けたのが、リノベーション住宅推進協議会のはじまりです。

「最低限の品質基準を決めよう」とか、「ちいさい事業者が多いから共同でプロモーションを打とう」といった動きから始めていき、現在では探しきれないぐらいの会社が加入しています。

ちきりん 現在は加入したいという会社があったら、協議会の定めた基準を守ることを条件として参加を認めているんですか?

島原 そうですね。最低限の審査は、協議会でも行っています。

リノベは共同プロジェクト!無闇な値切りが招く損

島原 実際、リノベーションが広まるにつれ、さまざまな業者が参入してきているのも事実です。たとえば、最近は「買い取り再販」といって、マンションを不動産会社が買い取り、どこかのリフォーム会社に内装を変えさせて売るケースも多いです。

ちきりん リノベ済みマンションの広告、めっちゃたくさんポストに入ってます。壁紙とフローリングだけ張り替えて、こじゃれた感じの洗面台や室内窓をつけて、みたいな物件も多そう。

島原 仲介手数料では取れないような利幅を載せて売れますしね。

ちきりん 不動産とリノベの抱き合わせ販売は、すごく利益があるのかなと広告を見てると思います(笑)。

そんな中、リノベーション協議会が業界団体として、業者側、そして消費者側、両方の意識を高めていく活動をしてくださるといいなあと思うんですけど。

ちきりん
関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。シリーズ累計30万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』『自分の時間を取り戻そう』(ダイヤモンド社)のほか、『「自分メディア」はこう作る!』(文藝春秋)など著書多数。

島原 現実問題として、協議会として個々の会員企業の管理監督もできませんし、標準化も難しいですが、業界団体として情報発信をしたり啓蒙していくことは必要だと考えています。断熱について言えば、ちょうどこの春に協議会の理事を中心に、ヨーロッパの省エネ住宅の取り組みを視察するツアーを行いました。リノベ事業者は一つひとつは小さな会社が多いですから、トップの意識が変わればすぐやれる。結果として全体として大きく変わっていきやすいはずです。

ちきりん それはすばらしいです。あと、もちろん買い手であるユーザー側も、もっと勉強する必要があると思います。

私は客側だったので正確にはわかりませんが、リノベ事業単独ではすごく儲かるビジネスだという感じもしませんでした。結局のところ、不動産を売るために役立つからリノベもやってます、って感じなのかなと。

「不動産を売るためのリノベ」ではなく「リノベのためのリノベ」が成り立つようにするには、客側もあまり無闇に値切らないとか、マナーが必要だなと思いました。

理屈なく値切ったりしてると「共同プロジェクト」じゃなくなってしまうし、下請けを叩いたり、工事の手抜きを招いたり、別の悪いことが起きてしまうはず。

島原 本当におっしゃるとおりです。だからこそ、ちきりんさんが「共同プロジェクト」と示してくれたことを、業界はすごく喜んでいます。自分たちからは言いにくいですからね。

ただ、これはちきりんさんも書かれているんですが、リフォーム会社間で見積もりを比較できないのは、たしかに問題です。標準的なフォーマットがあってしかるべきで、明細だけでも揃えなくてはと考えています。こういった点は事業者側も調整していく必要があります。

ちきりん 見積もりが比べられるようになると便利ですよね。どういうやり方をすればコストが下がるのか、客側でも検討できるようになるから。

やりたいことを積み上げていくと、どうしても高くなる。だからコストコントロールは大事なんだけど、今の見積書では、客側はどこをどう変えればいくら安くなるのかわからない。だから、意味も無く値引きを要求することにもなるのかなと。お互い無理のない範囲でコストを下げる方法を探すためにも、見積もりがわかりやすくなることは大事な気がします。

島原 巡り巡って戻ってくるんじゃないかなと思います。やはり人件費が要になる業界なので、全体を削れば、結果的に人件費にしわ寄せがくるので。

ちきりん ですよね。

リノベで住宅「価値」を向上させよう!

ちきりん 「不動産を売るためだけのリノベ」がメインになってしまうと、リノベの本当の価値が伝わらなくてもったいないとも思うんです。

リノベーションの価値は「設備が新品になる」や「内装が好みのものになる」ではなく、とにかく暮らしやすくなること。本を書くとき、こじゃれた内装の工夫ではなく、「リノベの本質的な良さ」をちゃんと伝えなくちゃいけない、と思いました。

島原 リフォームは建物や設備の原状回復の意味合いが大きいのに比べて、リノベーションは刷新を伴って価値を向上させることだと捉えています。その中で、性能向上による快適さをリノベーションでアピールしていくムーブメントを作っていかなくてはと思っています。協議会でも、品質基準の中に最低限「二重サッシ」あたりは入れられないかを検討中です。

ちきりん あと、便利な家電がこれだけ増えているのに、電気ポットとトースターが一緒に使えないコンセントなんて許せない(笑)。スマートホームとかいって、スマホで部屋の電気がつくのも大事だけど、その前にやることがあるだろって思います。

島原 電気なら自分でつけるよって思いますしね(笑)。それよりも基本性能が優れているほうがいいですよ。

ちきりん それと、今、日本でいちばんお金持ちなのは60代以上のシニア世代でしょ? 彼らも若いときに買った家が古くなってきて「住み替え」か「リノベ」かと考えているはず。高齢化対応としても、もっと工夫できる余地があると思います。

島原 あとは「親の住んでいる家が、空き家になったらどうするか問題」が大きいんですね。ただ、まだ70代ぐらいなら、元気なうちに断熱だけはやっておいたほうがいいとは思います。

ちきりん 人口が大きく減るわけですから空き屋問題は深刻ですね。ただ、長く住むなら断熱はやっとくべきですよね。うちの母親も足を悪くした後、たった数メートルの廊下を歩くのに10分くらいかかる状態になりました。そうなる前に「冬でも、トイレも廊下も暖かい家」にしておかないと。

島原 田舎の家って意外と寒いんですよね。僕の実家は四国なんですけど、みんなが思っているよりずっと寒いですから。家の中で何かがあって倒れられるより、それこそリノベーションのほうがずっと安価なんですが……なかなか。

ちきりん 数百万円もかかるリノベは「キレイにするためのコスト」だけだと高く感じるけど、ヒートショックで倒れたり、段差やたこ足配線でコケて寝たきりになったりというリスクが減らせると考えれば、トータルコストではすごく合理的な投資だと思います。

「衣食住」の中でもっとも遅れている「住」について、先進国として恥ずかしくないレベルとはどういうものなのか、しっかり考えるべき時期に差し掛かっているんじゃないかな。

そのためにも、島原さんのような業界側の方にも頑張っていただきたいし、消費者側も私の本でも読んでぜひしっかり勉強してほしいです(笑)! 【おわり】

(構成/長谷川賢人 写真/疋田千里)