ボストンコンサルティング社長として名を馳せたビジネス界きっての読書家が、どう読書と向き合ってきたか、何を得てきたか、どう活かしてきたかを縦横無尽に語り尽くす。
自分を高める教養と洞察力が身につき、本を武器に一生を楽しむ、トップ1%が実践する『できる人の読書術』を説き明かす。

手強い本(読書)は初めの40ページだけ我慢

 哲学書に限らず、読み進めるのが難しい“手強い本”はある。
 それを手強いという理由だけで、読むのを諦めるのはもったいない。

 一度でも過去に読んだ経験のある著者の本なら、馴染みがあって案外ラクに読み進められるもの。
 著者の考えや表現方法が、すでに頭に入っているからだ。

 まったくお初の著者の本を読むのは、初対面の人といきなり会話をするようなものだから、慣れ親しむのに少々時間がかかることがある。

 ウマが合う人とそうでない人がいるように、著者の考えや表現次第で、とっつきやすい本とそうでない本がある。
 それでも初めの100ページくらいを丁寧に読み進めていると、著者に馴染むようになり、そこから先は調子よく読める。

 哲学書のようなチャレンジングな本は、1日に1~2ページしか読めないこともある。
 そんな調子では100ページ読むのに2~3ヵ月もかかってしまう計算だ。
 2~3ヵ月も辛いことを続けられない。
 挙げ句の果てに途中で心が折れて挫折したら、失敗体験として心に刻まれてしまう。

 読書に限らず、生きていく上での知恵の1つは、心が折れたり、挫折したりしないように自らを適度に甘やかすことだ。

「どうしても100ページ読むぞ」と厳しく考えてしまうと、逃げ道がなくなって辛くなる。
 自分で自分の首を絞めるのは、馬鹿げている。

 哲学書のように手強い本は、ハードルをぐっと下げて、初めの40ページをクリアすることを目標にしよう。
 これなら1ヵ月前後で何とかクリアできる。

 哲学書は文庫本でも新書でも読める。
 1日に1~2ページしか読めないなら、いっそ文庫本や新書をお風呂場に持ち込み、入浴のついでに読んでみるのも手だ。

 デスクに坐って「よし哲学を学ぶぞ!」と腕まくりをして臨むと、緊張して内容が頭に入ってこないもの。
 入浴のついでに湯船に浸かってリラックスしてページをめくっていると、心も身体も弛緩しているので、逆に難しい内容がスッと頭に入ってきやすくなる。

 バスルームに持ち込むと本は濡れてクタクタになる。
 読了後はお払い箱にする他ないが、安価な文庫本や新書なら惜しくはない。
 シャツが何度も洗っているうちに身体にだんだん馴染んでくるように、クタクタになった本には不思議と愛着が湧くものである。
 本に馴染みが出てくると、それだけ読みやすくなる。

 文庫にも新書にもなっていない哲学書は、図書館で探してみるといい。
 哲学書を単行本で買おうとすると高価だが、図書館で借りるのは無料だ(カラオケで歌うときだって著作権料を払っているのだから、図書館で本を借りる際も著作権料として10円なり20円なりを払うべきだと私は思う。だが、それはまた別の話だ)。

 大枚叩いて高い哲学書を買うと、元を取ろうと難しくても頑張って読もうとする。
 それに失敗すると失敗体験として心に刻まれてしまう。

 図書館で借りた本なら、1ページ目で挫折したらさっさと返却してしまえばいい。
 それなら失敗体験として心に刻まれる心配はない。
 もちろん、図書館の本をバスルームに持ち込んで濡らすわけにはいかないから、大人しく部屋で読もう。

 いずれにしても、40ページまできても著者の考えに一向に馴染めず、先へ先へ読み進めるエンジンがかからないようなら、そこで読むのを止めてしまって構わない。
 少なくとも40ページまで読むという当初の目標は達成しているのだから、それを失敗と捉えなくていい。

 こうやって何度も「40ページチャレンジ」を地道に続けていると、読解力は知らず知らずのうちに高まってくる。
 1年もすれば、哲学書だって40ページ以上読めるようになり、そのうち最初から最後まで1冊丸ごと読めるようになる。

 難しい本ほど、読み終わったときの達成感は大きい。達成感を積み重ねていくと、やがて自信に変わる。
 哲学書が1冊読めたら、そこで得られた達成感と自信を糧に、他の本もどしどし読めるようになる。

 難しそうだからといって食わず嫌いでいたら、いつまで経っても哲学書は読めない。
 まずは手近な1冊を手に取り、1ページ目をめくってみてほしい。