【メガトレンド3】
クソ仕事の蔓延

「モノの過剰化」と「問題の希少化」というメガトレンドの掛け合わせはまた、人類がかつて経験したことのない未曾有の状況を生み出すことになります。それは「意味のない仕事=クソ仕事の蔓延」という事態です。

 私たちは一般に「仕事」というものを「価値あるもの」と考えます。だからこそ多くの人は「無職」という状況になんらかの後ろめたさを感じるわけですし、失業率の上昇は対処すべき由々しき社会問題として取り上げられます。

 しかし、すでにモノが過剰に行きわたり、解消すべき問題が希少化しているのであれば、むしろ「失業」は生産性向上の末に達成された歓迎すべき状況だと考えるべきだということになります。

 そして実際、昨今実施されている各種の統計や調査では、大多数の人々は、自分の仕事が社会になんの価値ももたらしていない、と感じていることがわかっています。これは「モノの過剰化」や「問題の希少化」というメガトレンドが必然的にもたらした結果と言えます。

 そもそも、本来の仕事が「有用なモノを作る」あるいは「重要な課題を解決する」ということであれば、モノが過剰にあり、問題が希少となっている社会では、仕事の本来的な需要は減少するはずです。しかし、私たちの労働時間は100年前とほとんど変わっていません。

 20世紀前半に活躍したイギリスの経済学者、J・M・ケインズは1930年に著した論文で「100年後には週に15時間働けば十分に生きていける社会がやってくる」と予言しています。

 ケインズはまさに、生産性が向上し、社会に物的資本が蓄積されることで、労働需要は減っていくだろうと考えたわけですが、しかし、この予言は実現せず、私たちは100年前と変わらない時間を労働に割いています。求められるニーズが一定であれば、生産性の向上に伴って投入されるべき労働量は減少するはずですが、一向にそうなっていない。このロジックはどこに破綻があるのでしょうか?

 結論から言えば、私たちの多くは実質的な価値や意味を生み出すことのない「クソ仕事」に携わっている、ということになります。労働に関する需要が減少しているにもかかわらず、労働の供給量が変わらないために、本来的な意義を有さず、社会にとって意味のないクソ仕事に多くの人が携わって生きていかざるを得ない、というのが現在の社会なのです。

 このような世界にあって、目的や意味を明確化することなく、ただひたすらに生産性を求めて量的成果を追求するオールドタイプは、さらなる「クソ仕事」を作り出して周囲のモチベーションを破壊し、自らも「無意味の泥沼」へと陥っていくことになるでしょう。

 一方で、常に「仕事の目的」や「仕事の意味」を形成し、本質的な価値を言語化・構造化できるニュータイプは、人材を惹きつけ、モチベーションを引き出し、大きな価値を生み出すことになるでしょう。

(本原稿は『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口周著、ダイヤモンド社からの抜粋です)

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。