プレゼンを通じて「視座」を高める
コーポレートコミュニケーション部・佐々木小織さん
吉田さんは、そのプレゼンを高く評価する。
「彼らのプレゼンは、長時間残業がなぜダメなのかというところからひもといていって、それを1日30分でも削減すれば、それが堆積していき、会社が、自分たちがこんなふうに変わっていくんだ、という未来をリアルにイメージさせてくれました。おそらく、そのリアルな未来をメンバーたちも見ていた。だからこそ、その後、彼らは自発性を発揮して、実際に残業時間を減らし、未来を少しずつ変えていったのだと思います」
さらに、吉田さんが注目するのは、彼らのプレゼン資料にある「いちばん大切なこと」を記したスライドだ。そこには、「社員ひとりひとりの意識の改革」という言葉とともに、「自分達で考え、自分達で行動を起こし、自分達で状況を変えよう」と明記されている。
これは、前田氏がプレゼン研修で最も重要視している「念い(おもい)」を意識して生み出された言葉だ。信念、念願の念と書いて「念い」とは、「思い」とも「想い」とも異なり、人間の心の最も深いところに根を張った強い気持ちのこと。プレゼンに向けた準備をするなかで、この「念い」を定めることこそが、「プレゼン思考」の中核であることを、前田氏は強調しているのだ。
吉田さんは、プレゼン準備のプロセスで「自分達で考え、自分達で行動を起こし、自分達で状況を変えよう」という言葉に「念い」がこもったのが、残業削減の原動力になったと見ている。
「私が、前田さんの研修を毎年聞かせていただいて共感しているのは、卓越したノウハウもさるところながら、『念い(おもい)』を込めることの重要性を一貫して強調されていることです。人を動機づけて立ち上がらせ、ものごとに向かって一歩進んでいく。そしてその過程において人を巻きこんでいくという一連の動作の根幹にあるものは、まさに『念い』なんだと思うのです。そして、彼らが、長時間労働を誰かのせいにするのではなく、“自分達で状況を変えよう”と『念い』を込めたからこそ、残業削減が進んだのだと思います」
さらに、こう話す。
「これは僕の考えですが、人材開発のポイントは、社員一人一人の『主語』をいかに刷新できるか、ということだと思っています。つまり、主語を『Supershipのある部門に所属する社員』とするのか、『インターネット業界を牽引する者』とするのかで、その人の
意識も行動も全然変わってくるはずです。主語を刷新することで、同じ事象を見たときに見えてくるもの、向き合うべきものが変わってくるのではないでしょうか。視座を高めると言ってもいいでしょう。プレゼンを通して思考を深めることで、『念い』を磨くことによって、視座が確実に高まっていくと思います。プレゼン研修を通して、そんなトレーニングにつなげていければと願っています」
経営戦略本部 コーポレートコミュニケーション部の佐々木小織さんによると、Supershipグループでは、海外展開や大手企業とのJVの設立など、新しい取り組みが次々に展開されているという。研修を通じて、社員の『念い』を深め、視座を高めることができれば、新規事業を成功に導くことができるはずだ。(おわり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。「飛び込み営業」の経験を積む。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。営業プレゼンはもちろん、代理店向け営業方針説明会、経営戦略部門において中長期計画の策定、渉外部門にて意見書の作成など幅広く担当する。
2010年にソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認されたほか、孫社長が行うプレゼン資料の作成も多数担当した。ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍したのち、2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』(ダイヤモンド社)を刊行して、ビジネス・プレゼンの定番書としてベストセラーとなる。
ソフトバンク、ヤフーをはじめとする通信各社、株式会社ベネッセコーポレーションなどの教育関係企業・団体のほか、鉄道事業社、総合商社、自動車メーカー、飲料メーカー、医療研究・開発・製造会社など、多方面にわたり年間200社を超える企業においてプレゼン研修・講演、資料作成、コンサルティングなどを行う。