赤字決算に業務改善命令
苦境の野村に再編観測浮上
「株高なのに個人の顧客が動かない。今のマーケット環境でうちがもうからず、ボーナスが半分になるなんて」。大手証券会社の中堅幹部は、やりきれない思いを吐露した。
事実、対面販売という旧来型ビジネスに依存していた証券会社で業績不振が表面化した。象徴する存在が、2019年3月期で10年ぶりの赤字に追い込まれた野村ホールディングス(HD)だ。
野村HDの純損益は1004億円の赤字で、主因はホールセール(法人向け・大口取引)部門でのれんの減損損失が814億円の費用計上となったこと。
だが、リテール(個人顧客向け)部門において税引き前利益が前年比52%減益の495億円に沈んだ点が、より深刻だ。まさに、冒頭の幹部の問題意識が発露したかたちといえる。
あるアナリストは、「野村證券の顧客の大半は70歳以上といわれるが、金融庁は75歳以上への証券商品の勧誘は慎重にしろと言う。これだけで野村の株を買う材料がない」と冷酷な評価をする。
ひいては、後述する東京証券取引所の市場区分の見直しを巡り、金融庁が野村HDに業務改善命令を出したことで信用は地に落ちた。
くだんの有識者懇談会に参加していた野村総合研究所の研究員が、議論の内容を野村證券のストラテジストに耳打ち。これが情報漏えいだと見なされ、厳罰が下った。
これを受けて、コマツなど大手企業が野村證券を社債主幹事に選ばなかったり、政府による日本郵政株の売り出しの主幹事から落選したりと、「野村外し」の動きが出始めている。
赤字決算と行政処分という“ダブルパンチ”で、昨年来続く野村HDの株価低迷に反転の道筋が見えなくなった。
18年3月末の時点で約2.1兆円だった時価総額は、19年3月末で1.3兆円まで下落。さらに株価は、今年4月の決算発表後に400円を割り込み、300円台を抜け出せないままだ。
こうした割安株と化した野村HDを指して、ある競合証券会社の幹部は「今という今、野村争奪戦が起こるのではないか」とやゆする。
その候補に挙がるメガバンクグループでも、「収益不振を抜け出す起死回生の一打になる可能性もある」(メガバンク関係者)と、“頭の体操”が始まったようだ。
この市場価値リスクにさらされているのは、何も野村だけではない。今、地方銀行も市場の評価が雌雄を決する展開を迎えた。