小さな成功体験こそが、人生を変えるスタート地点だ
北野 やっぱり前田さんに憧れてる方の中には、憧れる一方で、自分にはできないと思っている人もいるはずじゃないですか。そういう人に「今からでもできることって何でしょう?」と聞かれたら、どんなアドバイスをされますか?
前田 どんなに小さくてもいいから、成功体験を積むことだと思います。そのために今回の本では、誰にでも真似できる「フォーマット」を用意しました。抽象化のスキルを詰め込んだ、いわば「思考の矯正ベルト」になっているので、一回本に書いてあるとおりに実践してもらえれば、自分にもできると思ってもらえるんじゃないかな。
北野 小さな成功体験、なるほどなあ。僕は、ビジネスパーソンにとっての小さな成功体験って、「どんなに小さなお金でもいいから、自分が値付けしたものを売ること」なんじゃないかと思います。大きな会社にいるほど、そういう機会がないじゃないですか。1000円でも5000円でもいいから、自分で考えたサービスやプロダクトに値付けしてお金をもらう。その経験があれば、ビジネスパーソンとして考え方が変わると思うんですよね。『転職の思考法』でも、「マーケットを見るか、上司を見るか」という図でその視点を伝えたら、かなり反響がありました。
前田さんも、マーケットを見る経験を小学生のときにもうしていたことが今につながっているわけですよね。
前田 まさにですね。
変わるには、まず「変えられるという実感」が必要だ
前田 成功体験という話でいえば、僕は「自己効力感」をすごい大事にしているんですよね。
北野 自己効力感?
前田 よく言われる「自己肯定感」は主に過去の自分に対しての肯定。一方、「自己効力感」は未来の自分に対して、「僕・私はやれるな」と思える感覚のことを指します。僕は、いつも講演のとき、聞いた人に「なんだかわからないけどやれる気がする」って思ってほしくて全力で話してるんです。そのときは根拠がなくても、そう思い続けてたら、けっこう描いたとおりになると思っているから。
『2001年宇宙の旅』っていう映画があるじゃないですか。僕、あれが結構好きで。1950年代だったかな、まだ人類が月に行ってなかった頃の映画なんですよ。でも、そこで描かれた宇宙服の映像を見て、NASAが今実際に使われている宇宙服をつくったんです。
北野 なるほど。いわゆる、「予言の自己成就」ですね。先に描いてしまうことによって、「ああ、こんな感じなんだな」と全員がイメージを持てて、実際にそのとおりになった、と。
前田 そうです。未来のことに対してできると思っていたら実際にできるようになっていくし、できないと思っていたら本当にできなくなっていく。だとしたら、「自分にできると思えるかどうか」こそが大切になってくるはず。その端緒を掴んでほしいな、と思ってそのノウハウを本に詰め込みました。
「次の0.5歩」さえ見られていけば、いつかゴールにたどりつく
前田 北野さんが、「ゴール達成に向けてまず今日からすべきことって何でしょう?」と人に相談されたら、どんなアドバイスをするんですか?
北野 僕は、「次の0.5歩」を理解しているかどうかがすごい重要だと思っています。僕が取り組んだ音楽でいえば、いきなり今日から名演奏家にはなれないじゃないですか。でも、その名演奏家になるという目標を分解した結果、「まずやるべきは音階の幅を理解することだ」とわかっていること、つまり、次の0.5歩を理解していることが大切だと思っています。さらに具体的にいえば、そのために僕は代表作の分析じゃなく、「佳作の分析こそ」意味があると思っています。
前田 佳作の分析、ですか。
北野 僕は国家戦略の本を書くのが夢なんですけど、それくらいマクロな次元での思想家って、日本では大前研一さんくらいしかいないと思います。あと、少しジャンルは違うけど、小説家の村上龍さん。そういう人が、どういう人生を歩んでいたか。
村上龍は35歳のときに『愛と幻想のファシズム』を出していて、大前研一が32歳の時に『企業参謀』という本を出してます。だから、少なくとも32~35歳ぐらいまでの間には、ベストセラーを一冊は絶対出す、と目標にしていたんですよね。だけど、もっと大事なのは彼らが、その年になるまでにどんな「佳作」を出してきたのか。たとえば21歳のときにその人たちが何をしていたかを調べるのは、「次の0.5歩」を見るという意味ではけっこう重要かなと。
前田 たしかに、そうですね。分解されたプロセスを積み上げれば、大きなことも達成できるわけですから。
今日は、対談楽しかったです! 『転職の思考法』でも発揮されていたクリアな構造の整理に、うならされました。
北野 自分の人生に悩む人は、ぜひ両方読んでほしいですね。前田さん、ありがとうございました。
(終わり)