30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が14万部のヒット、次作『天才を殺す凡人』(日経新聞出版社)も9万部とベストセラーを連発する北野唯我氏。同じくデビュー作が10万部『人生の勝算』、次作の『メモの魔力』(幻冬舎)が36万部の大ヒットとなっている、SHOWROOM代表の前田裕二氏。時代を切り取る二人の著者に共通する強みは、「自己分析」力だった。自分を分析すること、その分析をもとに夢を叶える秘訣について語り合う。(撮影:池田実加)

大ヒット作『メモの魔力』は、実はメモの本ではない

北野 今日はよろしくお願いします。今回の対談を楽しみにしてきました。というのも、前田さんには同じ「本の著者」という立場からも聞いてみたいことがあって。発売開始からめちゃくちゃ売れている『メモの魔力』ですが、「メモ」とタイトルで謳いながら、これ、思考法の本ですよね?

北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局。その後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、最高戦略責任者。2019年1月からは子会社代表取締役、社外IT企業の戦略顧問も兼務。また作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が14万部。2作目の『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)は9万部を突破している。

前田 ああ、まさに。そうなんですよ。これは、僕が「メモ」を通してどういう思考法を確立してきたか、「メモ」がいかに今の自分、今の事業につながったかが書かれた本なんです。

北野 なるほど。『転職の思考法』で本質的に書きたかったのも、実は転職というむしろ「自分の人生をどう設計していくか」でした。前田さんのこの本も、夢や目標をどう叶えていくかを語った本。ある意味では、同じものを別の方法で書いた二冊とも言えますよね。

前田 たしかに! 伝えたいことの根本は一緒ですね。

前田裕二(まえだ・ゆうじ)
SHOWROOM株式会社代表取締役社長。1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入行。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。13年、DeNAに入社。仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同年8月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合併会社化。著書『人生の勝算』はAmazonベストセラー1位を獲得

北野 そもそもメモの本を出そうと思ったきっかけは何だったんですか? 前田さんといえば、SHOWROOMのトップであり、起業家。メモの本を出されたことは、僕には少し意外でした。

前田 そうですよね。もともと、僕は打ち合わせの際などに、「前田さん、めっちゃメモとりますね」と驚かれることが多かったんです。打ち合わせには、何を話すかを手帳に書くなど「予習」してから臨むし、打ち合わせが始まってからも、とにかくメモを取りまくる。僕としては息を吸うような自然な行為だったんですけど、ある日、とある記者の方に「前田さんがどんなふうに何をメモとってるのか、記事にしましょうよ」と言われたんです。「そんなの面白くないですよ」と言いつつも取材を受けてみたら、驚くほど多くの人に読まれた。そこで、あ、「メモってみんな関心があるんだな」と気づきました。

北野 ただ、伝えたいことの本質はメモではないですよね。

前田 そうなんです。実は、僕がこの本を通じて伝えたかったのは、「抽象化」という思考法の大切さ。ただ、『抽象化の魔力』という本をつくっても、絶対に売れない(笑)。だから、メモという誰にとっても馴染み深い行為に結びつける必要がありました。メモを経験したことのない人はいないはず。「抽象化」と聞くと抵抗を感じても、「メモ」と聞いたら割と入りやすいんじゃないかと。いわゆるユーザー体験のラダー設計ですね。

北野 なるほど。WHATの部分では「抽象化が大事だよ」、と伝えようとしているけど、HOWの部分では「抽象化の手段として、メモを使いましょう」と提案している。そういう構造ですよね。

前田 完璧な整理ですね。おもしろい!

つくりたいものをつくるか、売れるものをつくるか

北野 お話を聞いて、前田さんは「マーケットイン」と「プロダクトアウト」のバランスについてうまく考えられてるな、と思いました。前田さんは一冊目の『人生の勝算』で、ビジネスに触れつつも自分の人生について語られているじゃないですか。あれは、自分の内側から溢れてきたものを書いた、いわば「プロダクトアウト型」の本だったような気がするんです。欲望に忠実というか。でも、今回の『メモの魔力』は「マーケットが何を求めているか」からスタートしているようにも感じました。そこで聞きたいんですが、もともと前田さんは、どっちタイプの人間なんですか?

前田 ああ、なるほど。『人生の勝算』にも書いたんですが、僕は小学生のときから路上で弾き語りをして生活のためのお金を稼いでいました。最初は、超プロダクトアウト型でやってみたところ、全然稼げなかったんですよ。

北野 そうなんですか(笑)。

前田 はい。でもそこで試行錯誤を重ねるうちに、「あ、自分が好きな曲をやるより、リクエストに答えるほうが稼げるな」というように気づきを重ね、そこから少しずつ稼げるようになりました、そういう意味では、人生のかなり早いタイミングから、マーケットインの考え方に触れていたのかもしれません。ただ、だからこそ最近は、ついついマーケットインに寄りがちな日々の仕事において、「これが大事なんだ」という自分なりの哲学を持つこと、プロダクトアウト的エッセンスを必ず入れ込むことを強く意識しています。マーケットを見てものづくりをするだけだと、どこかで、オリジナリティや独自性が削がれてしまうから。『転職の思考法』は、どうだったんですか?

北野 僕は本を作るときは、3階層で作っています。『転職の思考法』も『天才を殺す凡人』も小説形式であることがヒットの理由のひとつだと思うんですけど、どちらも最初は小説形式ではなかったんですよ。というか、そう作っていない。

 自分の思考プロセスをたどると、まず第一に「発明」をします。いわば「理論書」として文章を書くんですね。でも、これだと面白くないので、次に「ストーリー化」をします。これは理論という抽象的なものを最後まで読んでもらうためだったり、理論を補強するためですね。そして、最後は「共感」の要素を入れる。こうやって作っています。

 とくに『転職の思考法』でいうならば、最初の転職は、誰にとっても怖いものです。では、なぜ、転職が怖いかというと「やったことがないから」なんですよね。だとしたら、ストーリーで「追体験」したい、というのが読者の真のニーズではないかと。だから、この文脈でいうなら、プロダクトアウトでつくり、そこにマーケットインの発想をとりこんでいくイメージですね。

前田 なるほどなあ、面白い!