3度の渡航で「縁談」が成立する理由
今回の「縁談」が人生初の海外だった。飛行機に乗るのもはじめて。同行するのは30代と20代の男性1名ずつ、2人の「新郎」たちも同じ境遇のようだ。
フィリピンでの滞在は3~4日で、少なくとも3回は旅行をする「必要」がある。それは「1回目に女と出会い、2回目にその家族に紹介され結婚の手続きをし、3回目に結婚式を挙げる」という「自然な流れ」をつくるためである。これはただの旅行などではなく、立派な「仕事」だ。
「仕事」とはいっても、日本の入管に提出するための書類と証拠写真を用意するために割く以外の時間は、自由に遊んでいてよい。
昼はデパートで偽造ブランド品をあさり、マッサージ、実弾射撃、遊園地を満喫。夜になれば、フィリピンパブに売春デートクラブ。希望すれば何でもプロモーターが手配をし、金も払ってくれる。
20代の同行者は、はじめて空港のゲートで会った時から、着古したよれよれのジャージにスポーツバッグという出で立ちで「無職」だと言った。彼は、日本では決して経験できない豪遊への期待に目を輝かせている。
しかし、その彼が「これで毎月2万円もらえるなんて」と漏らすと、その場にいた全員が聞いて聞かぬふりをして押し黙った……。
戸籍を汚して月収5万円。その「報酬」には「源泉徴収」あり
日本に帰った彼らを待っているのは、最低でも3年間は毎月続くと言われている「報酬」。そして「摘発」のリスクだ。
毎月の「報酬」は人によって金額が違う。それは、プロモーターと彼らの仲介者にバックマージンが入るからだ。
プロモーターから直接「報酬」を受け取れば毎月5万円だが、たいていの場合、仲介者が1~3名ほど入っている。プロモーターは、下に“子ねずみ”を抱えれば抱えるほど「適任者」を広く探して集めることができるため、この構造は重層的になる。
彼ら「新郎」の手元に入るのは、少しずつ「源泉徴収」されていった後の「報酬」というわけだ。
しかし、「新郎」は自分がどれだけ「源泉徴収」されているかなど知らない。そして、“きれいな戸籍を守る”などという「常識の線量計」の針が振り切れてしまっている彼らにとって、金額の多寡は、その格差が意識に上らない限りはもはやたいした問題ではない。
「人助けをして金をもらえる」。ただそれだけだ。
結婚や大きな買い物を望まないのであれば、普通の生活を送っている限り戸籍が必要になることなどほとんどない。いや、もし“本当”の結婚をすることになったら、そして家でも買うことになったら、「バツ1だ」ということにすればいい。
むしろ、彼らにとって実質的な問題となりえるのは「摘発」にほかならない。