いよいよ秘密の工場に潜入!
高生産を可能にした技術者の発想とは

 高純度イリジウム「化合物」というからには、化学反応を起こしているわけだが、難し過ぎるのでここでは多くを語らない。あえて一口で言うと、フルヤ金属のすごみは生産効率の高さにある。製品の最終形態に持っていくまでに、まずイリジウムの塊を液化しなければならないのだが、ここに他にはない技術があるのだという。

 「晴れていれば、筑波山が見えるんですよ」(大石一夫・フルヤ金属取締役)。茨城県は土浦市。今回、その技術の粋を集めたイリジウム化合物の製造工場への“潜入”が許された。

フルヤ金属ロゴ年商わずか200億円の企業が世界を席巻する。日本の素材産業の実力は底知れない

 8月29日、大雨に対する厳戒態勢が続く九州北部とは対照的に、土浦の地は久しぶりにじめじめと暑く、工場内の温度は35度にもなっていただろうか。製造工程には加熱が不可欠であり、また、化学品を扱っているため、室内を浄化するべく常に空気を吸引している。それ故、冷やしても冷やしても涼しくならないのだそうだ。

 汗を拭いながら進むと、理科の実験で使ったフラスコを巨大にしたような容器が幾つも並び、くるくると回っている。不純物を取り除いたりするために使われるものらしい。これまでに見た化学メーカーのエチレン(石油化学製品の主原料)のプラントなどとは全く違う、独特かつ異様な光景に圧倒されるも、これはお金さえかければそろえられるものだという。

工場内部工場内には、くるくる回るフラスコが幾つも並ぶ、巨大な理科室のような不思議な光景が広がる

 では、イリジウム化合物を国産化したいであろう韓国・中国勢が、喉から手が出るほど欲しがるはずの工程とはどこを指すのか。

 聞くと、作業の場所だけは教えてくれたが、記事にしてはいけないというので、一切書くことができない。ただ、この工程を経ると、通常、数ヵ月かかるイリジウムの液化が1週間程度に短縮される上、その後の作業効率まで良くなるという。特殊な工程は、厳重に管理されており、社員でも限られた者しか近づけない。まさにフルヤ金属の秘中の秘といえる。

 「困ったからなんですよね」。それにしてもどうしてこんな工程がつくれたのかと首をかしげていると、隣でずっと説明してくれていた丸子智弘・フルヤ金属取締役がしみじみとつぶやいた。この工程をつくり上げたのは、他でもない丸子取締役だというのである。

 もともと、イリジウム化合物は自動車のエンジンの触媒などに使われていたのだが、あるとき受注が急増し、供給が追い付かなくなった。これまでの工程を踏襲して需要に応えようとすると、広大な場所が必要になる。「それじゃ生産性が悪いから、作り方を一変させちゃおうと思って。最初はビーカーで実験して、小さいプラントを造るまで半年くらいかかったかな。当時は人も少なかったんで、一人でやりました」(丸子取締役)。

 呆気に取られていると、丸子取締役は楽しそうに語った。「(重要なのは)できないとみんなが思っていることを、できると思えるかどうかです」。