武力による反撃を想定するほどの脅威として、サイバー攻撃に対する認識が新たな段階に入る中、米国を中心とする西側諸国、特にファイブアイズ(諜報機関の情報共有を行うUKUSA協定で結ばれた英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)と呼ばれる国々は警戒心を強めてきました。非友好国から継続的に行われる重要なインフラへのハッキングなど、平時とも戦時ともいえないグレーゾーンでの低強度の攻撃が常態化したことへの懸念です。
そもそもサイバー空間とは、国家の主権が主張できるような空間なのでしょうか。国家は全て国民・領土・主権で構成されています。そして政府が運営主体として存在します。この延長線上にサイバー空間も、国家にとって拡張可能な新たな領土と考えられる可能性はありますが、今のところはサイバー空間の主権について、完全な国際的コンセンサスはありません。
エストニアにある北大西洋条約機構(NATO)サイバー防衛センターは、サイバー空間における国際法適用の指針として「タリン・マニュアル」をまとめています。これによると、「国家の主権の原則はサイバー空間に適用される」といいます。物理的な通信ネットワークがある領域には、属地主義(場所を基準にして物事を決定する考え方)として国家の主権が及ぶと見なすためです。
その一方で、国際政治の大家として知られる米ハーバード大学のジョゼフ・ナイ博士は、国家の主権は物理的なインフラには及ぶものの、仮想レイヤー・情報レイヤーにコントロールが及ぶことは難しいと論文で述べています。
さらに言うと中国では、「中国政府が唱える国家主権とは、政府が国内のサイバー空間のコンテンツまで規制する権利を含む。 欧米諸国との間に、政府の介入を巡る大きな差異がある」と考えられています(出所:防衛省防衛研究所コメンタリー、17年5月)。サイバー空間と国家主権の関係は、各国政府によって考え方の差異があるのです。