
「数えたことなんてないけれど……大きいものだけで10台くらいありますかね」(小野裕之・三菱ケミカルソアノール事業部加工技術開発センター長)。時にはここで、顧客に代わって製品の初期評価まで行うこともあるという。
何を隠そう、EVOHは作れる企業が、世界でクラレと三菱ケミカルのほぼ2社しかない。そんな寡占市場でも、「カスタマーズ・ラボ」と銘打って顧客志向を貫き通しているのである。
積水化学工業の想像を絶する顧客対応力
顧客志向というと生ぬるく感じるかもしれない。しかし、日本メーカーが提供するカスタマイズのレベルは、時に世間が想像するであろう域を超えている。積水化学工業が世界トップシェアを誇る液晶ディスプレー向けの「シール剤」で説明しよう。
シール剤とは、湿気に弱い液晶を外気から守るディスプレーの接着剤だ。ただ隙間をふさげばいいというものではないから難しい。液晶のみならず、ガラスやカラーフィルターなど、接触する全てのものと相性が良くなければならないからだ。
だが、素材メーカーは、顧客から完成品の構成部材の仕様を明かされないのが一般的だ。つまり、顧客が使っているカラーフィルターなどがどんなものかはっきりしないまま、それに合うシール剤を推測して提供しなければならない。
しかも、テレビやスマートフォンといった電気製品は、製品ライフサイクルが短く、次々に新製品が発売される。対応力の高さは絶対で、完璧に顧客の要望に合う材料に仕上げるまでに与えられるチャンスは通常、たったの「1~2回」(村松隆・積水化学高機能プラスチックスカンパニーエレクトロニクス戦略室長)だ。