ロジカルシンキングでは決められないこと

問題を整理し、筋道立てて考えるロジカルシンキング(論理的思考法)では、このようなショートカットは禁じ手とされています。

例えば、企業が新しい事業に投資する場合は、投下した資金が一定の期限内に回収できるかどうかを徹底的に計算して意思決定するのが普通です。

他の投資案件と比較したうえで、投資回収に影響する要因を考えられるだけ抽出してそれぞれ分解して、要因間にどんな相互関係や因果関係があるのか分析し、比較・選択するアプローチをとります。

今後の大きな方向性を決めるような投資の場合、こうしたプロセスそのものに意味があるので、どこか一部を端折ることはできない。そう一般的には考えられています。

しかし、実際はどうかというと、そうでないケースが意外に多くあります。かつて世界の民間航空機業界をほぼ独占するほどの大成功をボーイング社にもたらしたジャンボジェット、ボーイング747の開発投資はその最たる例といえるでしょう。

当時のビル・アレン社長は後に、「食うときも、呼吸するときも、眠るときも、飛行機のことを考えていろ」という精神で投資を決断して開発を成功させたと述べています。実際、役員の一人が投資回収の根拠を尋ねても、相手にされなかったそうです。

会社の存亡を左右するほどの重大な意思決定が、論理的な分析をショートカットし、厳密な計画もなしに実行されたとすれば、驚きを禁じ得ません。

しかし往々にして、歴史的経営者の予想外の成功は、そうした大胆な思考と行動によってもたらされてきました。OODAループ思考なら、ロジカルシンキングではたどり着けない境地に到達することも可能です。

入江仁之(いりえ・ひろゆき)
アイ&カンパニー・ジャパン代表 経営コンサルタント 経済同友会会員
OODAループやサプライチェーンをはじめ全体最適・自律分散の先進的なモデルを提唱し、日本で最初期に導入。OODAループは、これまでに延べ1万人以上が体験し、導入企業では劇的かつ持続的なエンゲージメント、そして生産性向上を実現している。主なクライアントは、トヨタ自動車、日立製作所、GE、NTTグループをはじめIT、ハイテク、消費財などの各業界を代表する日米の企業。米国シスコ本社で戦略担当部門マネージングディレクターとしてエコシステムの構築をグローバルで指揮。ハーバード大学にて米国流の自ら考える教育を体験。外資系戦略コンサルティングファームの日本・アジア代表を歴任。PwCコンサルティングでは、合併統合により1000人規模の組織を構築し経営を統括。アーンスト&ヤングコンサルティングでは赤字だった日本法人を1年で世界最高の利益率を誇る事業に転換。経済同友会にて経済成長戦略委員会副委員長、情報処理推進機構にて情報処理技術者試験の試験委員、港区立青南小学校でPTA会長などを歴任。2015年からはOODAループ関連の論文をホームページで公開。直近半年での閲覧数が30万になっている。著書に『「すぐ決まる組織」のつくり方―OODAマネジメント』(フォレスト出版)等がある。