この過程がスムーズに流れずに調整が発生すると、手戻りが生じたりコストが高騰したりするといった混乱を招くことがある。ゼネコン関係者からは、「設計事務所は、実際には建てられないような設計図を描いてくることがある。そんなことが続くと、もはや設計事務所など要らないのではと思ってしまう」という声も聞こえる。

 2020年の東京五輪・パラリンピックの会場の一つになる新国立競技場の建設では、当初建築家の故ザハ・ハディド氏(ザハ・ハディド・アーキテクツ)のデザイン案の実現に向けて、設計事務所はコストや規模などの基本設計の条件を整理する業務を行った。施工図を描く前の段階だったが手を焼いたという。まさしく “調整”と呼ぶべきものだったのだろう。

東京五輪会場の新国立競技場は
ゼネコン主導で設計した

 新国立競技場のザハ案に日建設計も協力していたが、工事費膨張に伴い白紙撤回された。コンペはやり直し。新たな案が採用され、大手ゼネコンの大成建設と梓設計、隈研吾建築都市設計事務所による共同企業体(JV)によって建設が進んでいる。

 当初案からやり直すことになり、短い施工期間で完成させなければならないという悪条件の中、デザインビルド方式が採用された。これは設計と施工を一元化する手法で、ゼネコンも設計に関わる。つまり大成建設は施工だけでなく設計でも重要な役割を果たした。

 設計・施工一括方式の採用により、ゼネコンが仕事を進めやすいJV布陣となり、状況は好転した。

“ゼネコンが仕事を進めやすい”この方式では、プロジェクトの早い段階から施工しやすい設計図をゼネコンの設計部門と外部の設計事務所が検討できた。同じパーツを多用することで、工事中に職人の技術が習熟して作業のスピードアップを図れた。工事は順調に進み、予定通り11月末に竣工する見通しだ。

 もっとも、大手ゼネコン関係者は「新国立競技場におけるゼネコンの主導は、時間が制約された状況だったからだ」と言う。ゼネコンが設計を仕切るのはまだまれなケースだろうとみる向きは多い。設計事務所が施工会社の領域に踏み込むことも、その逆も、国内ではプロジェクトとして今のところメジャーなやり方ではない。

 結局のところ、施主にとって、設計事務所とゼネコン、どちらの主導が良いのか。