FCバルサが改修を機に数を増やしたかったエレベーターなどの縦の動線と観客の動きの関係をシミュレーションしたり、先にエレベーターとエスカレーター、階段、設備関係のパイプを集めた「コア部分」をスタジアムの外側に12カ所建設したりするアイデアは、オフィス設計の経験が生きた。

 スタジアムビジネスを伸ばすノウハウも重宝された。日建設計は日本のサッカークラブである鹿島アントラーズが拠点にしている茨城県立カシマサッカースタジアムや、東京ドーム、さいたまスーパーアリーナなどの設計で、グッズを売るショップの経済効果を実感していた。

 だからカンプ・ノウにもショップを設置する提案をして、スポーツ用品を扱う米ナイキの店が入ることになった。来店客が1人約2万円使ってくれるとそろばんをはじいてFCバルサをうならせた。各階の外周のスペースを活用して、人が集まるテラスを設けるほか、レストランも開店する予定だ。

 そして広告塔のパワーが発揮されたのか、中国・北京のプロサッカークラブから施設の設計コンペに誘われたり、日本でも日本サッカー協会(JFA)やJリーグの関係者、スタジアム中心の街づくりをしたい自治体などから、スタジアムやアリーナ施設の設計に関する引き合いが来たりしている。

 国内外でのスタジアム設計の営業を強化する武器になるだけにとどまらず、スポーツ施設以外の設計の受注を目指す際の参考事例としても活用できるという。カンプ・ノウの開放的なデザインは、ホールや人が出入りするような公共施設に通じるところがある。また、歴史的建造物の改修例としても利用できるのだ。

 これまで、カンプ・ノウのように設計事務所が施主に対してデザインだけでなく、施工に関する提案まで行うケースはあまり多くなかった。施工はゼネコンの仕事であるからだ。ゼネコンが現場で働く多様な建設関係の職人たちの指揮を執り、工期順守や低コスト化を目指しながら全体をまとめ上げ、施工を進めるというのが常だった。

 建築生産のフローの上流である施主の要望は絶対である。施主に最も近いところにいるのが設計事務所などの設計者。設計者は施主の要望を基に設計図を描いて、その図面を基にゼネコンが施工図を描き、実体化していく。