「文明」ではなく「文化」へのシフトを

平野啓一郎さん
平野啓一郎さん

平野 実は「文化」という言葉自体も、作られたのが結構遅くて、19世紀くらいになってやっとヨーロッパで使われるようになったんです。それまでは「文明」という言葉しかなかったんです。
新しい技術によって可能性が広がると、人々の世界観も変わるから、美の表現もその時代の人のための新しい文化が求められるようになります。

今は新しいものがどんどん生まれているけれど、玉石混交でつまらないものもある。そんな中で何がいいのか、何が美しいのかといったことを評価する時に、多くの人が「すごい」とか「カッコいい」といった言葉を使うと思うんですよね。

水野 確かにそういった感覚は、多くの人たちに浸透していると思います。
以前、山口周さん(『ニュータイプの時代』著者)と対談して「ヨーロッパの強いブランド力というのは、実は日本の文明が作ったんじゃないか」という話で盛り上がりました。世界中のカメラがキヤノンとニコンに置き換わる中で、ライカは文化として残るしかなかった。

平野 文明に対して文化を強調するのは、ドイツ人らしいですね(笑)。
(編集部注/キヤノンとニコンは日本のメーカーで、ライカはドイツのメーカー)

水野 (笑)。でもドイツだけでなく、イギリスの自動車メーカーのジャガーも、安くて高性能な日本車が出てきた時に、文化にシフトするしかなかったそうです。

では今、日本の企業がどこに向かうべきなのかと考えると、文明ではなく文化にシフトしていかないといけないのだと思います。それなのに日本の大企業はまだまだ文明が大好きで、いつまで経っても文化のほうに目を向けられないでしょう。