「いいものを作っても売れない」という矛盾
平野 「日本は今後、何で食っていくつもりなのか」ということが、わからなくなっているような気がします。国全体として、とにかく何かで食べていかないといけないのに、その議論が全くされていません。経済の議論では、いつも経済学のテクニカルな話ばかりしている。何をやっていくのかが見えにくいので、閉塞感が広がっているのだと思います。
昨今、「企業業績が上がっている」ということをよく耳にしますが、売り上げを見ると上がっていない。これは結局、賃金を抑制しているから企業業績が上がっているだけなんですね。一般消費者がある程度のお金を持っていないと、その人たちが新しい製品が出てきた時にそれを買って、「これいいよね」「これダメだね」みたいに評価することが、社会で機能しなくなってしまうと思います。人々の趣味も洗練されていかない。
今はデフレが長いから、新しい製品が出ても、安いかどうかばかりを気にしてしまっています。企業もそういう人たち向けに製品を作っているから、薄いものしか作れない。
富裕層に「いいものが欲しい」と言っている人が多いように、今の中間層以下の人たちがもっとたくさんお金を持てば、その人たちも「もっといいものが欲しい」となるはずです。
企業が賃金を上げようとしていないのに、「いいものを作っても売れない」というのは、矛盾していると思うんですね。もうちょっとみんなが豊かにならないと、いいものが出てきても、「そもそもお金がないから買えない」となりますから。
水野 今の話を聞いて、ある方が「日本人は成金みたい」と言われたのを思い出しました。
平野 日本人は、戦後の貧しい時代から、一気に高度経済成長以降のお金持ちの時代を経験したので、その中間のちょうどいい豊かさみたいなイメージを、戦後なかなか持てなかったような気がします。
水野 日本人は「文明」を手に入れざるを得なかったんでしょうね。でもそれが今、自分たちのウィークポイントになっています。そこに目を向けていかなきゃいけないということを意識するだけでも、10年後、20年後の世界はずいぶんと違う気がしますけどね。