弱点って、見方を変えれば強烈な個性になるなって思った

――数ある動物図鑑の中でも、特に『ざんねんないきもの事典』(シリーズ累計350万部)と『わけあって絶滅しました。』(シリーズ累計69万部)はベストセラーになりました。ヒットの要因はどこにあったと思われますか?

今泉 子どもを見てるとね、「ざんねんないきもの事典」とか「わけあって絶滅しました。」を読んだ後に、家族に問題を出すんですね。「ねえ、おしっこのしすぎで絶滅したファソラスクスって知ってる?」とか「ディプロカウルスが絶滅した理由わかる?」とか。そんなの普通の大人が知ってるわけないですから、みんな困っちゃう。それが子どもは快感なんだ。「この本、大人も知らねえことが書いてあるぞ」ってね(笑)。

――金井さんは『ざんねんないきもの事典』の初巻の企画発案者でもありますが、なぜ動物の「ざんねん」な部分に注目したのでしょう?

動物図鑑ブームの仕掛け人!動物学者と編集者が考える「生き物」の魅力とは?金井弓子(かない・ゆみこ)/ダイヤモンド社書籍編集局第1編集部/大学卒業後、他の出版社を経て2016年入社(入社時27歳)。担当書籍は『楽しくわかる!体のしくみ からだ事件簿』『せつない動物図鑑』『東大教授がおしえる やばい日本史』『わけあって絶滅しました。』『だれかに話したくなる あやしい植物図鑑』『続 わけあって絶滅しました。』『東大名誉教授がおしえる やばい世界史』など。

金井 以前いた会社では、深海生物や猛毒生物の図鑑を作っていたのですが、図鑑って基本的に「強い・速い・大きい」みたいなエリート生物を中心にピックアップしていくんですよ。でもいろんな参考書を読むと、地味だけど面白い生き物がたくさんいるってことがわかりまして。「実際の生き物はこんなに多様なのに、それを紹介する図鑑に多様性がないのはおかしくないか?」と思ったのが、はじまりですね。

今泉 動物の魅力は必ずしもストロングな部分だけではありませんからね。もっと味わい深い面白さがあることを伝えたいと。

金井 はい。例えば人間でも、めちゃくちゃエリートで頭が良かったり超イケメンだったりすると、「自分とは住む世界が違うな……」って少し引いて見ちゃう部分もあると思うんです。でも「天才だけど絶望的に朝が弱い」とか、「イケメンだけど女子の前だと緊張して震える」とか、その人の弱点を知ると、なぜか途端に愛らしさが湧く。弱点って、見方を変えればその人の強烈なキャラになると思ったんです。

今泉 なるほど。それで動物の弱点に焦点を当てて、キャラクターを立たせたのが「ざんねんないきもの事典」や「わけあって絶滅しました。」の図鑑になったというわけですか。

金井 特に「わけあって絶滅しました。」のほうは、モササウルスとか、ケラトガウルスとか、名前を聞いたこともなければ、遥か昔に絶滅していて見ることもできませんから。ただ単純にスペックや生態を書いただけでは、遠すぎて何も感じられないのではないかと……。けど、弱点を一つ入れるだけで、「なんかすごいわかるわ~」みたいな親近感が湧いて、子どもたちが興味を持って読んでくれるのではないかと思いました。

今泉 金井さんが考える「ざんねんないきもの事典」と「わけあって絶滅しました。」のヒットの一因はそこにある。

金井 いえ、でもまさかこんなに売れるとは本当に思ってなくて……。私はもう「今年の予算達成したから自分の好きな本作れるわ~」ぐらいしか考えてなかったんですけど。

「人間のヤバさを濃縮したような」絶滅理由をさわやかに伝える理由

――「ざんねんないきもの事典」や「わけあって絶滅しました。」の反応を見ると、賛否両論ありますよね。読者の大多数は好意的な感想を寄せていますが、一方で「動物の弱点を笑うな」とか「絶滅したことを面白おかしく書くなんてひどい」という意見も一部あります。これについてはどう思われますか?

今泉 何を優先に考えるかですよね。僕は「地球にはこういう動物もいる」「過去にはこういう理由で絶滅した生き物もいる」という“事実”を、まず子どもたちに知ってもらうことが大切だと考えています。そのためには親が押し付けるのではなくて、子どもたち自身が進んで手に取りたくなるような本でなければならない。その事実をどう捉えるのかは、本を読んだ子どもたちそれぞれの判断に委ねたいと思います。

金井 私自身は、「ざんねん」とか「せつない」といった形容詞が好きで、タイトルをつけるときはその言葉が持つニュアンスをかなり意識しました。「ざんねん」って、本来は「悔しい」という意味ですけど、日常で使うときは「ざんねんな美人」とか「ざんねんな夫」とか、ちょっと愛着や親しみを込めて使うことが多い気がしていて。「ダメ」とか「弱い」だと、ほかの解釈の余地がないんですけど、「ざんねん」は相手の弱点を受け入れる広さのある言葉だなと思ってつけました。

――タイトルにしても中身にしても、一義的ではなく、読み手のさまざまな解釈を受け止められる度量があった。その自由さが、子どもたちが心地よく本を読める理由にもなっているのでしょうか。

金井 そうですね。「わけあって絶滅しました。」の1巻の最初のページではステラーカイギュウという絶滅動物を紹介しているんですけど、これは特に賛否が多いんですよ。人間が絶滅させた生き物の中でも、相当悲惨な、人間のヤバさを濃縮したような絶滅の仕方をしていて……。実は最初にその事実を知ったとき、私自身すごく悲しい気持ちになって、「絶滅動物の本なんてもう読みたくない」ってくらい気持ちが落ちてしまったんです。

 だから、これを明るい感じに書いていいものかということは、正直かなり迷いました。当然、著者の丸山さんとも何度も相談しましたし……。でもやっぱり、まずはこういう事実があったということを子どもたちに知ってもらうことが大切だと思ったんです。

 「人間は昔こんなひどいことをしたんだよ。いけないことだよね」と言うのは、確かに大切な教えです。でも、それをそのまま本に書いても子どもたちは読まない。それは子どもたち自身が事実を知って、自分で考えるから意味が出てくると思うんです。だからまずは興味を持って読んでもらえるように、面白い仕掛けを考えねばと思いました。

今泉 動物だから許されるんだよね。これを人間相手にやったらダメだけど。「ざんねん!」って言っても、動物は人間の言葉がわからないから絶対に傷つかないし。だから、ちょっと申し訳ないけど、動物に代表してもらって、「全ての生き物には弱い部分がある」ってことや「絶滅の悲惨さや不条理さ」、そういうものをありのまま子どもに伝えるほうがいいだろうなと思うんですね。あんまり深刻ぶらずに、あっさりでいいと思うんだ。こちらが構えるほど、子どもは逃げていくからね(笑)。

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